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第35回例会の内容紹介

平成9年2月23日 

モーツァルトのピアノ三重奏曲と四重奏曲

  • ピアノ・ヴァイオリン・チェロのための三重奏曲    ト短調 K.564 
  • ピアノ・ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロのための四重奏曲  変ホ長調 K.493 
  • ピアノ・ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロのための四重奏曲  ト短調   K.478 

ピアノ:桜庭淑子/YAMATO弦楽四重奏団
             ヴァイオリン:浜野考史
                ヴィオラ:榎戸崇浩
                チェロ :阪田宏彰 

曲目解説

            井上 太郎

 ピアノ・ヴァイオリン・チェロのための3重奏曲と題されたト長調のこの曲(k.564)は1788年10月27日付けで「自作品目録」に記入されている。この年の夏は最後の三つの大シンフォニーが書かれたわけだが、この作品には肩の力を抜いた気軽さがある。 
 

 第1楽章アレグロはピアノの浮き立つようなト長調の第1主題で始まる。それを弦楽器が受けて繰り返すニ長調の第2主題は第1主題と似たものである。続く展開部はニ短調で始まり、再び冒頭の主題が再現する。 

 第2主題のアンダンテはハ長調の主題と6つの変奏曲で、第5変奏はハ短調で書かれている。
 第3楽章はト長調のアルグレット。ロンド形式のフィナーレで、8分の8拍子のシシリア舞曲風の主題は、思わず口ずさみたくなるような楽しいものだ。 


 モーツァルトはピアノにヴァイオリン、ヴィオラ、チェロが加わった四重奏曲を2曲しか書いていないがどちらも充実した内容の傑作である。この2曲は、モーツァルトが親しかった作曲家で、また楽譜の出版もしていたホフマイスターの依頼により書かれた。 

 ところが最初に出来たト短調の曲(k.478)を見たホフマイスターは、アマチュアにはむずかしすぎて売れないだろうと言ったので、モーツァルトはこの1曲で打ち切り、2曲目の変ホ長調はアルターリアから出版している。 

2曲とも終楽章は非常に意欲的で、この中に現れる耳慣れない音の使い方に、当時の人は驚いたことだろう。 

 今日の前半に演奏される変ホ長調の曲は、「自作品目録」のノートには1786年6月3日付けで記入されている。これは4月29日付けの《フィガロの結婚》(K.492)に続くものである。 

 第1楽章のアレグロは変ホ長調で開始の直後、2小節目で早くも変イ長調に転調する気配をみせるといった、聴衆の意表をつく始まりである。主題の配置も通常のソナタ形式とはいささか異なったものである。 

 第2楽章は変イ長調のラルゲット。静かな始まりが美しい。中間の展開部でモーツァルトはまたも当時の人を驚かすような音の使い方をしている。このあたりの神秘的な音の流れに、ぜひ耳を澄ませて頂きたい。 

 第3楽章のアレグレットには、これまでの緊張をときほごす様な楽しさがある。ホフマイスターはこんな調子の曲をモーツァルトに求めたのだろう。ヴァイオリンとピアノが、前打音をチラッ、チラッとならして、お互いに目配せするようなところも、忘れずに入れてある。 


 休憩後に演奏されるト短調の曲(K.478)は、モーツァルトの室内楽では数少ない短調の曲で、しかもト短調という調はモーツァルトにとって特別なものだったらしく、つきつめた感情の表現を託したようだ。 

 この曲をモーツァルトは「自作品目録」に1785年7月と記入しているが、自筆楽譜には10月16日とある。これは目録への誤記だろうと言われてきたが、書き直しが行われたという推測もなりたつ。 

 第1楽章アレグロは、気迫のこもったユニゾンで始まる。これに応えるピアノとの対照が取り分け美しい。展開部での惻々と迫る哀感は、再現部にいたって情熱的な盛り上がりをみせる。まことに感銘深い楽章である。 

 第2楽章は変ロ長調のアンダンテ。冒頭にピアノが奏する主題にはロマンの薫りがただよう。この楽章は長調でありながら短調への揺れがすくなくない。 
 

第3楽章は晴れやかなロンドである。 


出演者のプロフィール

桜庭淑子 1993年、国立音楽大学卒業。同大学卒業後新人演奏会、読売新人演奏会に出演。1995年、同大学大学院音楽研究科修了。クロイツァー賞受賞。現在ソロ、室内楽活動の傍ら、後進の指導にあたっている。 

YAMATO弦楽四重奏団 1994年結成。これまでに兎束俊之、大関博明、岡山 潔、藤森亮一の各氏に師事。95年1月、秋田県大曲新人音楽祭でグランプリ受賞。松尾学芸振興財団より特別奨励を受ける。96年、第2回大阪国際室内楽コンクールに入選。2月、三宅榛名、高橋アキ両氏と共演、三宅氏の作品を初演。5月、漆原哲子、上村 昇、豊嶋泰嗣氏を中心とする「ジャクムス」第10回記念演奏会にゲスト出演。8月、リゾナーレ音楽祭に出演するなど、各地で活発な演奏活動を行っている気鋭の室内楽団。

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