湘南モーツァルト愛好会

第37回例会の内容紹介


平成9年5月18日

フォルテピアノとクラヴィコードの演奏とお話

*フォルテピアノ  

モーツァルト:ソナタ イ長調 K.331  <トルコ行進曲つき>

*クラヴィコード  

C.P.E.バッハ:ソナタ ニ短調 Wq.51-4   
C.P.E.バッハ:ロンド ホ短調 Wq.66  
<ロンドによる、わがジルバーマン・ クラヴィーアとの別れ>   

休憩 

*フォルテピアノ  

モーツァルト:ロンド イ短調 K.511   
ベートーヴェン:ソナタ ニ短調 Op.31-2   <テンペスト>

フォルテピアノとクラヴィコード  渡邊順生


 曲目解説

              井上太郎  


 音楽史の流れの中にモーツァルトを置いてみて、彼が誰から、どのような影響を受けたか、またあとに続く人たちが、どのような音楽によってモーツァルトを乗り越えようとしたかを、音楽における「幻想」と言う面から追ってみたのが本日のプログラムです。

モーツァルト:ソナタ イ長調 K.331  <トルコ行進曲つき> 
 モーツァルトのソナタの中でもとりわけ有名なこの曲は、20年ぐらい前までは1778年頃パリで書かれたとされていました。今でもそう書いてある本を見かけますが誤りです。その後の研究の結果1783年にウィーンで書かれたことがわかりました。この年は、1683年にウィーンを包囲していたトルコ軍を撃退してから百年目の記念の年だったのです。忌まわしいはずのトルコが、ウィーンの人たちの「幻の国」となり、1782年に《後宮からの逃走》が書かれて大ヒットしたのもトルコ・ブームのせいなのです。 
 なおこの曲にはソナタ形式の楽章が全くなく、いわばソナタの中の異端児です。 
 第一楽章アンダンテ・グラツィオーソは8分の6拍子の美しい主題による6つの変奏曲です。 
 第二楽章メヌエットは複合三部形式で書かれており、トリオにおける転調の妙が聴きどころでしょう。
 第三楽章 アラ・トルカ アレグレットは、どなたもご存じのトルコ行進曲で、イ短調で始まり、最後はイ長調で華やかに終わります。打楽器をにぎやかに鳴らして行進する様子が終わりの方で描写されています。


カール・フイリップ・エマーヌエル・バッハ ソナタ ニ短調 Wq.51-4  ロンド ホ短調 Wq.66  <ロンドによる、わがジルバーマン・クラヴィーアとの別れ> 
大バッハの次男であるエマーヌエル(1714−1788)は、ハンブルクとベルリンで活躍した人で、彼が1753年に出した『正しいクラヴィーア奏法の試み』は、近代のピアノ奏法の基礎を作った名著です。
 彼はクラヴィーア曲をおびただしく書きました。それらは多感様式と呼ばれる自由で幻想的な作風で書かれています。 モーツァルトは彼に一度も会っていないのですが、受けた影響の大きさは最近とみに注目されています。
 このソナタは1758年の作品とされるものです。 第1楽章 アレグロ・アッサイは幻想曲風で、ソナタ形式がまだ確立していないことをうかがわせます。
 第2楽章 ラルゴ・エ・ソステヌートはヘ長調で、おだやかな始まりですが、突然暗い和音が激しく鳴りわたり、ト短調、ニ短調、さらには変ト長調といった離れた調に転調するなど、彼の面目躍如です。
 第3楽章 プレストはニ短調で、ロンド形式で書かれ、目まぐるしい奔流のような趣きの曲です。 次のホ短調のロンドは、晩年の1781年、50年間も愛用していたジルバーマン製のクラヴィーアを、ある人に譲ることになって、その別れの気持ちを託して書かれた曲です。心を打つ名作と言えましょう。


モーツァルト:ロンド イ短調 K.511  
 1787年3月11日の日付を持つこの傑作は、主題が半音階を含み、和声も半音階和声が多く使われているので、暗い幻想の世界を歩むような、不思議な情感をかもしだします。自筆楽譜に演奏指定がこまかく書き込まれているのも珍しいことです。


ベートーヴェン:ソナタ ニ短調 作品31-2  <テンペスト>
 ベートーヴェン(1770−1827)とモーツァルトの年齢差は14歳です。二人は一度しか会えませんでしたが、ベートーヴェンはモーツァルトを深く尊敬し、その作品を徹底的に研究しました。
 このソナタは1802年に書かれた意欲作で、ベートーヴェンはこの曲を理解するためには、シェイクスピアの「テンペスト」を読めと言ったといいます。
 第1楽章 ラルゴ−アレグロは暗い幻想的な曲で、早い部分と遅い部分の組み合わせが絶妙です。
 第2楽章 アダージョは陰欝な両端楽章と対照的に変ロ長調で書かれ、憧れの思いが込められています。
 第3楽章 アレグレットは再びニ短調に戻って、激しい幻想の嵐が渦巻きます。この楽章はモーツァルトのイ短調のソナタ(K.310)の第3楽章からヒントを得たのではないかと思われます。

渡邊順生のプロフィール



1950年鎌倉に生まれる。一橋大学社会学部卒業後渡欧し、アムステルダム音楽院でレオンハルトにチェンバロを師事、1977年にソリスト・ディプロマを得て卒業。翌年東京にてデビュー・リサイタル。フォルテピアノ及びクラヴィコード奏者としても精力的に活動。
 また指揮者としてもバッハ《ヨハネ受難曲》ヘンデル《メサイア》モンテヴェルディ《オルフェオ》等で好評を博す。ブリュッヘン、ビルスマ等の名演奏家との共演も多い。
 CDでは「即興するモーツァルト」バッハの《パルティータ》(全曲)等がある。楽譜の校訂ではモーツァルトのハ短調の幻想曲とソナタの新発見の自筆譜による世界最初の校訂などがあり、古楽器演奏の第一人者として知られる。
 上野学園大学、桐朋学園大学、東京音楽大学、国立音楽大学の各講師。








当日使用された
 フォルテピアノ


 1800年頃の
Ferdinand
Hofmann 製作



















 当日使用された
 クラヴィコード
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