湘南モーツァルト愛好会

第43回例会の内容紹介


 弦楽四重奏とクラリネット五重奏

                    W.A.Mozart
 

    弦楽四重奏曲 ニ短調   K.173

    弦楽四重奏曲 変ロ長調《狩》 K.458
    

    クラリネット五重奏曲 イ長調 K.581  

クラリネット・品川秀世/YAMATO弦楽四重奏団  

<プロフィール>

◎品川秀世 1993年東京音楽大学器楽科卒業後、渡仏。パリ市立12区音楽院に入学、94年同音楽院の室内楽で審査員満場一致で1位。同年イギリスでデビュー・リサイタル。95年ピカルディー欧州音楽コンクールで1位。96年レオポルド・ベラン音楽コンクール1位。パリ市立12区音楽院を主席卒業。これまでにパリ、ロンドン、ケンブリッジ、ミュンヘンを始めヨーロッパ数十都市にてリサイタル活動をおこなっている。

◎YAMATO弦楽四重奏団 1994年結成。これまでに兎束俊之、大関博明、岡山 潔、藤森亮一の各氏に師事。95年1月、秋田県大曲新人音楽祭でグランプリ受賞。松尾学芸振興財団より特別奨励を受ける。96年、第2回大阪国際室内楽コンクールに入選。漆原啓子、上村昇、豊嶋泰嗣各氏を中心とする「ジャクムス」第10回記念演奏会にゲスト出演。長野県リゾナーレ高原音楽祭に出演。またNHK−FMリサイタルへの出演などで注目を浴びている気鋭の弦楽四重奏団。
第1ヴァイオリン・浜野考史/第2ヴァイオリン・石田泰尚/ヴィオラ・榎戸崇浩/チェロ・阪田宏彰。
 
<当日のプログラムより>

 曲目解説  井上太郎

 モーツァルトの初期の弦楽四重奏曲は、最初のト長調(K.80)を除くと、ミラノで書かれた6曲とウィーンで書かれた6曲の2つのセットに分けられる。ミラノのセット(K.155〜160)は、3度目のイタリア旅行の時のもので、1772〜3年に書かれた。これらを書いていた時にモーツァルトはまだハイドンの弦楽四重奏曲を知らなかったと思われる。ところがミラノから帰ってわずか4カ月後にウィーンへ赴き、そこで書いた6曲(K.168〜173)は、ヨーゼフ・ハイドンの作品の影響が顕著で、ミラノのセットとの違いは大きい。それは当時のウィーンの音楽がモーツァルトにとっていかに刺激的であったかを物語っている。ハイドンが弦楽四重奏曲の書法を確立した作品9のセットや作品17のセットはすでに出版されており、さらに充実した作品20のセットは未出版ながら、筆写譜で見ることが出来た。それらの表現の多様さに17歳のモーツァルトは瞳目したに違いない。
 ミラノのセットはいずれも3楽章で書かれているのに対し、ウィーンのそれはどれも4楽章である。そして対位法の技術が凝らされているところが多い。中にはバロック時代の合唱曲のような曲(K.168の第2楽章)やフーガ(K.168及びK.173の第4楽章)もある。 ウィーンのセットの最後に位置するニ短調(K.173)は、モーツァルトの弦楽四重奏曲の中でわずか2曲しかない短調の曲の1曲(もう1曲はK.421)である。
 第1楽章 アレグロ・マ・モルト・モデラートは、下降するニ短調の物淋しい主題で始まる。これを振り切るような上昇主題が対照的だが、この楽章では次に出てくる,めんどりの鳴き声に似た風変わりな主題の活躍がめざましい。
 第2楽章 アンダンテ・グラツィオーソはニ長調で民謡風の主題によるくつろいだ趣きの楽章である。
 第3楽章 メヌエットは再びニ短調の緊張感をたたえて始まるが、トリオはヘ長調で対照的に楽しい。
 第4楽章 アレグロはニ短調の下降半音階の主題によるフーガ。終楽章にフーガを使うのはハイドンから学んだものだが、多少のぎごちなさがある。


 
 1785年にハイドンへの献辞と共に出版された6曲のセットは、ウィーンのセット以来10余年ぶりにまとめられたもので、弦楽四重奏曲の作曲の先達に対する心からの返礼であった。注文によらずに自主的に作られたこの6曲について、献辞の中で「長くつらい労苦の結実」と書いているように、モーツァルトの弦楽四重奏曲の中でも最高の作品群である。とくに変ロ長調(K.458)は《狩》の愛称で親しまれている。
 第1楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ・アッサイは狩の音楽に常套の8分の6拍子で、変ロ長調の元気のよい第1主題で始まる。ソナタ形式で書かれているものの第2主題が展開部の冒頭で初めて現れるなど、形破りのところがあり、コーダも綿密に書かれている。 第2楽章 モデラートは変ロ長調の快い旋律のメヌエット。トリオの主役は第1ヴァイオリンである。
 第3楽章 アダージョは変ホ長調で、モーツァルトの書いた最高のページの一つであろう。深い精神性を感じさせる、すばらしい音楽の流れにぜひ心をゆだねて聴いていただきたい。
 第4楽章 アレグロ・アッサイは変ロ長調の軽快なフィナーレ。第3楽章に神経を集中した後のこの開放感も、まさしくモーツァルトのものである。
 


 ウィーン時代のモーツァルトが特に好んだ楽器にクラリネットがある。友人にシュタードラーという名手がいたこともあって、この頃のオペラやオーケストラ作品には、この楽器が際立つものが多い。室内楽では1789年9月に完成されたクラリネット五重奏曲イ長調(K.581)が最高傑作で、作曲者自身もこの曲を《シュタードラー五重奏曲》と手紙に書いている。
 第1楽章 アレグロは弦楽四重奏によるイ長調のゆったりとした、第1主題の提示で始まり、それにクラリネットが合の手を入れる。チェロのピチカートで始まるホ長調の魅力的な第2主題がクラリネットに引き継がれてホ短調に陰るあたりは最高の聴きどころであろう。展開部は弦楽器の活躍がめざましい。
 第2楽章 ラルゲットはニ長調で、クラリネットの伸びやかな歌で始まる。これに第1ヴァイオリンが高音域で答える美しさは格別である。
 第3楽章 メヌエットはイ長調で、2つのトリオを持つ。つまりメヌエットは3回繰り返されるのである。第1トリオはイ短調で、弦楽四重奏だけで演奏され、第2トリオはクラリネットが入ってイ長調になる。
 第4楽章 アレグロ・コン・ヴァリアツィオーニはイ長調の主題による4つの変奏曲である。ヴィオラがむせび泣く第3変奏とクラリネットが陽光の中で躍る第4変奏の対比が聴きどころである。最後は名残りを惜しむような美しいアダージョがあり、再び冒頭の主題が現れて曲を閉じる。
 
 

 
 
 
 
 
 
戻る.....