第150回例会の内容紹介


クインティアーデ・アンサンブルによる
               モーツァルトなどの室内楽

2015.9.6 14:00〜17:00  藤沢リラホール(第150回)

出演:原田 亮子(1st Vn)道橋 倫子(2nd Vn) 富田 大輔(Va)平野 朝水(Vc)藤井 泉(Vc)

曲目:
           
モーツァルト作曲  
♪ディヴェルティメント  ヘ長調   K.138
♪弦楽四重奏曲第2番  ニ長調    K.155
シューベルト作曲 
♪弦楽五重奏曲  ハ長調   D.956(遺作)

当日のプログラムより

曲 目 解 説
                                 吉野 忠彦
 ♪モーツァルト作曲:ディヴェルティメント ヘ長調 K.138

16歳のモーツァルトが第2回と第3回のイタリア旅行の合間(1772年1-3月)にザルツブルクで書いた3曲のセットの中の曲。(オーケストラ用)ディヴェルティメントとされているが楽器編成は弦楽四重奏と同様であり、どのジャンルに属するか分類泣かせの曲で、独墺では「ザルツブルガー・シンフォニー」とも称される。この時期、少年モーツァルトにとって一番大事なのはイタリア(ミラノ)でのオペラ上演であり、彼の心は常にイタリアを向いていたといってよい。K.136-138の3曲はいずれも3楽章からなっているがイタリア風の軽妙快活な実に明るい曲である。本日演奏されるK.138はK.136同様、イタリア・オペラの序曲風に急―緩―急の3楽章からなっているが、間に入っているK137では、ゆっくりした楽章に始まり、楽章が進むごとにテンポが速くなってゆくスタイル:すなわち序破急のような構成となっている。 本曲では開始部がフォルテとピアノ、ユニゾンとコードの交代が問いと答えになっているようでこれに続く美しい主題がイタリアを思い出させる。抒情的な第2楽章ではヴァイオリンで奏されるやや瞑想的なのびやかなメロディが印象的だ。軽く華やかなフィナーレの楽章は典型的なロンド形式。わずか2分余の短い楽章ではあるが変化に満ちており、短調の旋律やピッチカートによる部分などは強く印象に残るに違いない。いずれにしても16歳の天才の瑞々しい感性がほとばしるこの3曲あたりから正真正銘のモーツァルトらしさが感ぜられるようになるように思う。

♪モーツァルト作曲:弦楽四重奏曲第2番 ニ長調 K.155

 モーツァルトは1772年10月24日に彼自身の最後になったイタリア旅行(第3回目)に父とともに出発した。目的はミラノでのオペラ・セリア「ルーチョ・シッラ」の作曲・上演であった。この旅行でモーツァルトは初めて本格的な弦楽四重曲6曲(K.155−160)を書き、出版はされなかったものの「ミラノ・セット」と呼ばれている。本日演奏される曲はその1番であり、ミラノへの途上のボルツァーノないしヴェローナで書き上げられたと思われている。その動機は父レオポルトの10月28日付の手紙によると「長い暇をつぶすための退屈しのぎ」であったようである。このミラノ・セットの6曲にはまだハイドンの影響はなく、イタリアで流行していたスタイルによりどれも3楽章形式になっているが、興味深いのは6曲中4曲までもの第2楽章が短調となっていることである。(この第1曲では第2楽章は短調ではなくイ長調だが、展開部において短調への傾斜が著しい)。これ以前に書かれた弦楽四重奏曲は1曲だけでやはりイタリアで2年半前に書かれた「ローディ」(K.80)だが、比較するまでもなくこの短期間で彼が格段に作曲の腕前を上げたことがわかるし、モーツァルトがこのセットをきっかけに一段と室内楽への傾向を強めていったことも首肯されよう。

♪シューベルト作曲:弦楽五重奏曲  ハ長調   D.956(遺作)

フランツ・シューベルト(1797-1828)の最後の作品で彼の室内楽の最高傑作である。おそらく彼の死の直前の1828年9月ごろに作曲されたと推定されている。シューベルトは尊敬する先輩のベートーヴェンにならって弦楽四重奏曲は20曲以上書いているが、五重奏についてはモーツァルトよりも少ない3曲しか残さなかった。しかもその3曲の楽器編成がそれぞれ異なっている。(うち1曲はピアノ+弦楽三重奏+コントラバスによる有名な「ます」)本日演奏される五重奏曲は、2つのヴィオラを重ねたモーツァルトの作品に範を求めず、より古いボッケリーニに倣ってチェロを2つ重ねたもので、独自の境地をその死の直前に開いたものとなった。シューベルトはライプチッヒのプロープストという楽譜出版元に草稿を送って出版を依頼したが、黙殺され、世に出たのは実に22年後の1850年の彼の命日11月17日にウィーンの楽友協会で有名なヘルメスベルガー四重奏団により初演された時であった。しかも4年後シュピーナ社から出版された時は、どういうわけか第2楽章と第3楽章のトリオが割愛されていた。全曲の出版(作品163として)は1871年のブライトコップ社からであった。すなわち、この曲もシューベルトの他の2曲の交響曲「未完成」と第9番「ザ・グレート」同様あわや永遠の消失という目に合いそうになったのである。ちなみにシューベルト以後のロマン派の作曲家たちは新たな音量や音響そして音色を求めて弦楽四重奏より編成の大きなものを書いてゆく傾向になるので、シューベルトの作品がその一つの出発点となったともいわれる。チェロが重複されたため、モーツァルトやベートーヴェンの五重奏に比べ、全体に重く沈んだ印象を与えられ、またより交響曲的な響きも得られた。しかし、気分的には時に暗い気分が現れるが、これは本人がこのころのたびたびの体調不良から間近(2か月後)の死を予感したからかもしれない。
 曲は4楽章から成りたっており、シューベルト的な歌謡的旋律に満ちて「長大」なものになっている(特に第1楽章に歌曲集「白鳥の歌」からのいくつかの曲に似た旋律が出る。)が、瞑想的な第2楽章アダージョは名高く、さまざまな映画にも使用され、またカール・べーム(指揮者)やアルトゥール・ルービンシュタイン(ピアニスト)の葬儀などで演奏された。さらに第3楽章のトリオでの悲痛な程の抒情性やハンガリー風の主題から始まり、メランコリックな歌と陽気さを併せ持った終楽章も忘れがたい。




◎出演者のプロフィール


道橋 倫子(みちはし のりこ) ヴァイオリン
桐朋学園大学音楽学部卒業。同大学研究科修了。シカゴ・ルーズベルト音楽院入学と同時にシカゴ・シビックオーケストラに入団。「サイトウキネン若い人のための室内楽勉強会」、小沢征爾音楽塾、サイトウキネンオーケストラ、アフィニス夏の音楽祭等に参加。ヴァイオリンを名倉淑子、ロバート・チェンに師事。現在日本センチュリー交響楽団団員。

原田 亮子(はらだ りょうこ) ヴァイオリン
桐朋女子高等学校音楽科を経て、同大学音楽学部を卒業。08〜11年まで、公益財団法人 ロームミュージックファンデーション奨学生として英国王立音楽院大学院課程演奏家ディプロマコース、ギルドホール演劇音楽学校修士課程を最優秀にて卒業。第1回全日本芸術コンクールヴァイオリン部門 関東本選第1位。サイトウキネン若い人のための室内楽勉強会、プロジェクトQ、フレンターナ夏季音楽祭(伊)などに参加。これまで、ソロリサイタルを銀座 王子ホール、兵庫県立芸術文化センターKOBELCO大ホール等で行う。2011〜14年、兵庫芸術文化センター管弦楽団でヴァイオリン・フォアシュピーラーを務め、現在は、東京と兵庫を中心に演奏活動を行う。

冨田 大輔(とみた だいすけ) ヴィオラ
愛知県立芸術大学を経て、東京芸術大学音楽学部を卒業。同大学院修士課程修了。第3回みえ音楽コンクールヴィオラ部門第1位。第13回日本クラシック音楽コンクール弦楽部門全国大会第4位。サイトウキネンフェスティバルやアフィニス音楽祭などに参加。大学院に在学中、選抜され芸大室内楽定期に度々出演。原村室内楽セミナーでは最優秀で「緑の風音楽賞」を受賞し、奨学金を受ける。プロジェクトQ・JTが育てるアンサンブルシリーズ・リゾナーレ音楽祭・彩の国アーティストシリーズなど様々な演奏会に出演している。また、関西フィルハーモニー管弦楽団・神奈川フィルハーモニー管弦楽団・東京フィルハーモニー管弦楽団では客演首席奏者として活躍。現在、日本フィルハーモニー交響楽団ヴィオラ奏者。これまでにヴィオラを野上阜三博・兎束俊之・川崎和憲・岡田伸夫の各氏に師事。

平野 朝水(ひらの ともみ) チェロ
桐朋女子高等学校音楽科を卒業後、フランス・パリ国立高等音楽院に入学。チェロ、室内楽科の両科において最優秀の成績で卒業する。ビバホールチェロコンクール入賞。ローム・ミュージックファンデーション、明治安田財団奨学生。近年ではソロ、室内楽奏者としてDeauville、Limoge、Quichampre等フランス各地の音楽祭に招かれる一方、リヨン国立歌劇場客演首席奏者として定期的に招聘されるなど、多方面において活動している。これまでチェロを音川健二、倉田澄子、フィリップ・ミュレールの各氏に師事。Mecenat Musical Societe Generaleの支援を得て2015年よりA.Cauche製チェロを使用。

藤井 泉(ふじい いずみ) チェロ
桐朋学園大学音楽学部を卒業後、ドイツ国立トロッシンゲン音楽大学へ留学、2014年3月にKonzertexamen課程を修了しドイツ国家演奏家資格を取得。第1回ガスパール・カサド国際チェロ・コンクールin八王子にて日本人作品最優秀演奏賞受賞。第8回ビバホールチェロコンクールにて第三位受賞。小澤征爾音楽塾、小澤征爾若い人のための室内楽勉強会in奥志賀に度々参加。これまでにJohannes Goritzki氏(ロンドン王立音楽院教授)に招待され"スコットランドチェロフェスティバル"に、またRoland Pidoux氏(パリ国立高等音楽院教授)の招待を受け"ベライユチェロ音楽祭"に参加。これまでに千本博愛、倉田澄子、原田禎夫、Francis Goutonの各氏に師事。現在は主にドイツにてソロ・室内楽を中心に活動する傍ら、ドイツ国立トロッシンゲン音楽大学にて教授アシスタントを務める。



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