第151回例会の内容紹介


大場俊一 ピアノリサイタル

2015.11.8 14:00〜17:00  藤沢リラホール(第151回)

出演:大場 俊一 (Pf) 大場 文恵 (Pf)

曲目:
           
モーツァルト作曲  
♪ピアノ・ソナタ ニ長調 K.576
♪連弾のためのピアノ・ソナタ ハ長調 K.521 
♪ロンド イ短調 K.511 
♪ピアノのための幻想曲 ハ短調 K.475
  及びピアノ・ソナタ ハ短調 K.457

当日のプログラムより

曲 目 解 説
                                 井上太郎
♪ピアノ・ソナタ ニ長調 K.576

 モーツァルトの最後のピアノ・ソナタとなったこの曲は、1789年ヴイルヘルムU世を訪ねた時、王女フリーデリーケのために6曲の「やさしいピアノ・ソナタ」を作曲して献上するつもりで作られたものであった。しかし実際に出来上がったのはこれ1曲だけで、技巧的に最もむつかしく、内容の充実した名作となっている。
 第1楽章は8分の6拍子の、いわゆる狩の音楽の形をとったユニゾンの第1主題で始まる。展開部ではイ短調で始まったかと思うと、突如変ロ長調に転調するといった意表をつく展開と、対位法の鋭い切り込みが随所に現れる。
 第2楽章はイ長調のアダージョで始まる。心の底から湧き出てくるような旋律が、やがて嬰ヘ短調の陰りを見せるあたりの美しさは、この曲の一番すばらしいところだろう。
 第3楽章は元気のよいアレグレットで始まる。冒頭の第1主題がこの楽章全体で活躍し、意表をつく転調もある。この主題と3連音符のパッセージの駆け巡りが、対位法的な緊張感を生み出すのだ。
♪連弾のためのピアノ・ソナタ ハ長調 K.521

 自筆楽譜には1787年5月26日と明記され、友人に手紙を添えて送っている。それによると、友人の妹のために作ったが、少しむずかしいとあり、出版に際しては別の姉妹に献呈している。
 第1楽章アレグロは力強いユニゾンで始まる。これと16分音符の華やかなパッセージが、コンチェルトのように呼び合いながら流れて行く。
 第2楽章アンダンテはへ長調でゆったりと始まり、中間部では32分音符の暗い音の波がニ短調で起伏するが、やがてへ長調の主題に戻って終わる。
 第3楽章はハ長調で、アレグレットの主題で始まる。この主題はちょっとユーモラスな楽しいものだ。

♪ロンド イ短調 K.511

1787年に書かれた不思議な情感をたたえた秀作である。主題自体が半音階を多く持ち、和声も半音階和声を多用している。和声の構造を見ると、上に行くべき導音を下降させているところが多く、それが調性を不安定にさせ、不思議な情感を生み出しているのだろう。
中間部のイ長調が過ぎて再びイ短調に戻り、そして注目すべきコーダに入る。ロンドの主題が左手に移ると、右手に複雑で繊細を極めた対位主題が現れる。最後は暗い波のように盛り上がる左手の音の上に主題の冒頭が現れ、消えたかと思うと、1オクターヴ上にチラ
リと現れて消える。あたかも虚空に消える魂魄のようだ。

♪ピアノのための幻想曲 ハ短調 K.475
        及びピアノ・ソナタ ハ短調 K.457
 モーツァルトのピアノのための曲の中で最高傑作といわれるこの2曲の内、ソナタは1784年10月、幻想曲は1785年5月に作曲され、アルターリアから一対のものとして出版された。通常2曲続けて演奏されるので、解説もそれに従う。
 幻想曲の譜面を見ると中間の変ロ長調のところ以外はハ短調のはずなのに調号がついていない。それは転調が極めて多いからだ。ユニゾンの重々しい主題のアダージョで始まり、全体5つの部分から出来ている。主題提示は3回繰り返されるが、1回ごとに1音ずつ下がって行き、6小節目から主題の展開が始まる。その間、1音節ごとに転調する。そしてニ長調に入り、束の間の平安となるが、再び強烈な嵐になる。この後も平安と嵐が交互に現れ、最後はハ短調で閉じ、続けてソナタの第1楽章に入る。
 アレグロ・モルトの第1楽章の主題はハ短調の主和音の分散形を駈け登るユニゾンである。これは幻想曲の冒頭と照応する。
 第2楽章の変ホ長調のアダージョは、安らぎの一時である。この中間部のところを、ベートーヴェンはハ短調の《悲愴》ソナタの第2楽章にそのまま使っている。
 第3楽章はアレグロ・アッサイ、第1楽章をしのぐ情熱がほとばしり、悲劇の結末のようである。




◎出演者のプロフィール


大場 俊一 (おおば しゅんいち) ピアノ
 1965年、東京藝術大学音楽学部楽理科卒業。在学中安宅賞受賞。1968年、旧西ドイツ・デトモルト音楽大学留学。西ドイツ新進演奏家オーディションに合格し、ギーセン音楽祭に出演。1970年、ザルツブルグ夏期講座において、師ヴァイセンボルンの助手を勤める。帰国後、独奏者として、また歌曲の伴奏者、室内楽奏者として活発な演奏活動を開始し、楽壇の注目を集める。1983年、ソプラノ歌手エリザベート・シュヴァルツコップフのマスタークラスで、伴奏と通訳を勤める。ピアノを瀬川慶子、野呂愛子、小林道夫、クラウス・シルデ、歌曲伴奏法及び室内楽をギュンター・ヴァイセンボルンの各氏に師事。ソロリサイタルの他に、著名な演奏家との共演が多く、その音楽に対する豊かな感受性、鋭い分析力を踏まえた緻密な演奏は高く評価されている。2011〜2013年、5回にわたり、モーツァルト全ソナタ、全連弾ソナタの演奏を行う。2015年、王子ホールにてモーツァルトのソナタによるリサイタルを行い、好評を博す。長年にわたり、東京藝術大学、埼玉大学教育学部、東邦音楽大学大学院で後進の指導にあたり、NHK/毎日新聞主催「日本音楽コンクール」をはじめ、多数のコンクールの審査員を務めている。また、学会においても「モーツァルトのピアノ曲の演奏法」などを発表した。現在、埼玉大学名誉教授。

大場 文惠(おおば ふみえ) ピアノ
東京藝術大学附属音楽高等学校卒業後、同大学音楽学部ピアノ科卒業。東京藝術大学音楽学部助手を勤める。在学中より、ピアノ独奏、歌曲伴奏、室内楽など、数多くの演奏会や、NHK・FMの録音を行う。ピアノを池田由美子、勝谷壽子、井口秋子、伊達純、クラウス・シルデの各氏に師事。シルデ氏より、磨かれた音色、繊細な音楽性、優れた構成力を高く評価されている。2008年、東京文化会館において大場俊一と「メシアン生誕100年」と題して「アーメンの幻影」全曲を、又、2010年は宇都宮市文化会館でモーツァルトの「2台のためのソナタ」他によるデュオリサイタルを行い、大きな反響を得た。現在、東邦音楽大学主任教授、宇都宮市教育委員会委員長。



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