第158回例会の内容紹介


♪加藤 浩子(音楽評論家) 講演
      「モーツァルトのオペラの魅力」

2017.1.22 14:00〜17:00 鎌倉商工会議所(第158回)


当日のプログラムより

 モーツァルト、傑作オペラの魅力〜《フィガロの結婚》の過去と現在
 
                                加藤 浩子

 モーツァルトの傑作オペラ、とりわけ、いわゆる「4大オペラ」(《フィガロの結婚》《ドン・ジョヴァンニ》《コジ・ファン・トウッテ》《魔笛》)は、オペラ史上の大傑作です。モーツァルトのオペラは、「抽象的であると同時にリアリスティックでもある」と言ったのは、指揮者でロッシーニのスペシャリストであるアルベルト・ゼッダ氏ですが、けだし名言といえましょう。つまりモーツアルトのオペラは、音楽として自律していると同時に、リアリズムの音楽=演劇的な音楽としても機能しているのです。ゼッダ氏は、モーツァルトとの比較で、ロッシーニは抽象的な作曲家(=音楽とドラマが別々)であり、ヴェルディはリアリズムの作曲家(音楽とドラマが一体化)である、と言ったのですが、モーツァルトはこの双方を兼ね備えたたぐい稀なオペラ作曲家なのです。

 そんなモーツァルト・オペラは、周知のように多くのアーティストを魅了し、さまざまな解釈がなされてきました。とりわけ、20世紀後半以降、クラシック音楽界に起こった古楽ブームと、オペラ界での「読み替え」演出の興隆を受け、音楽、演出ともども、ありとあらゆる解釈の可能性が追求されています。音楽面で言えば、モーツアルトのオペラほど、ピリオド楽器とピリオド奏法、歌唱法の影響を受けたオペラはないでしょうし、演出面で言えば、モーツァルト・オペラに内在するテーマの普遍性?人間感情、とくに男女の機微の表現?が、多くの演出家の意欲をそそるように思われます。その背景には、映画『アマデウス』などによって、モーツァルトの音楽の受容が、「神のような、崇められるべきもの」から、「きわめて人間的なもの」へと変化した(東京交響楽団音楽監督ジョナサン・ノット氏)こともあるように感じられます。研究の進展もあり、人間モーツァルトがぐっと身近になったことが、多様な解釈を許容するようになったのではないでしょうか。
 今回は、モーツァルトの代表作にしてオペラ史上の名作のひとつ《フィガロの結婚》を題材に、ここ半世紀ほどの演奏と演出の解釈の変遷をたどり、その背景にあるものをさぐってみたいと考えています。
 
音楽面での解釈の変遷
 いわゆる「古楽」ブームは、当時の楽器の復元、演奏習慣の研究がベースになっています。ノンヴィヴラート、即興や装飾といったピリオド奏法・唱法は、研究の進展によって急速にさかんになりました。バッハ(およびバロック、ルネッサンス)とならんで、モーツァルトは、音楽学的な研究の進展が実践に結びついた幸福な例といえましょう。バッハやモーツアルトを得意とする演奏家の多くが研究者的な側面を持っているのは、偶然ではありません(アーノンクール、ヤーコプス、クルレンツィスなど)。
 今回は、いくつかの音源を比較しつつ、演奏スタイルの変遷をたどりますが、大きな違いは、よく言われるテンポより、即興や装飾、使用楽器、楽器の響きに対する感覚、歌唱法にあらわれるように思います。かつては、リヒャルト・シュトラウスを歌うような歌手がモーツァルトを歌っていましたが(シュヴァルツコプフなど)、今では、バロック・オペラのプリマドンナが伯爵夫人を歌うのです(ケルメスなど)。

演出面での解釈の変遷
 昨今のオペラ界での「演出」ブームにのり、モーツアルト・オペラにも、演劇的に多様な解釈がなされるようになっています。とりわけ、男女の間の普遍的かつ複雑な感情が主要なテーマであるダ=ポンテの台本による3つのオペラは、その代表格といえるでしょう。ただ、過激な?演出が多いワーグナーのオペラと違い、モーツァルトの場合は、いわゆる「読み替え」とならんで、古典的な演出も変わらず上演されていて、モーツァルト・オペラの間口の広さをあらわしているように思えます。


◎講演者のプロフィール


加藤 浩子
音楽評論家。慶應義塾大学講師。慶應義塾大学大学院修了(音楽学専攻)。執筆、講演、オペラ&音楽ツアーの企画同行など多彩に活動。著書に『今夜はオペラ!』『ようこそオペラ!』、『バッハへの旅』『ヴェルディ』『オペラでわかるヨーロッパ史』他多数。最新刊は『音楽で楽しむ名画』(平凡社新書)。
公式HP http://www.casa-hiroko.com/
ブログ「加藤浩子の美しき人la bella vita」
http://plaza.rakuten.co.jp/casahiroko/



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