第161回例会の内容紹介


♪トロイ・グーギンス ヴァイオリン・リサイタル

2017.6.25(日)14:00〜17:00 藤沢リラホール (第161回)

出演:トロイ・グーギンス(Vn)  相川 陽子(Pf)

曲目:
モーツァルト作曲 
♪ヴァイオリン・ソナタ  ト長調  K.301
♪ヴァイオリン協奏曲第1番   変ロ長調  K.207
♪ヴァイオリン・ソナタ  ホ短調 K.304
♪ヴァイオリン協奏曲第7番 ニ長調 K.271a(K271i)


当日のプログラムより

 曲 目 解 説

♪モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ ト長調 K.301
 現在ではヴァイオリン・ソナタと言うとヴァイオリンの演奏をピアノが伴奏するものと考えますが、当時はヴァイオリンの伴奏がついたピアノ・ソナタとして出版されたのです。
 モーツァルトの幼少年時代、つまり1764年から68年には10曲ほどこの形のものが出版されていますが、それ以降はこのジャンルの作品は長いこと書かれず、ようやく1778年になって6曲の作品が完成されパリで出版されました。これを書き始めたのは、ザルツブルク以外の地で就職すべく母と共に旅に出て、マンハイムに滞在していた時のことでした。
 モーツァルトは当時の習慣で、6曲のセットを考えて書き始め、これを版刻してマンハイムの選定侯の夫人に献呈し、自分の就職の手立てにしようとしたのです。しかしそれは役に立たず、パリへ向かいました。この曲はマンハイムで作曲された6曲の二番目のものです。
 第1楽章アレグロ・コンスピリートはヴァイオリンが奏する流れるような第一主題で始まり、この一連のソナタにおけるヴァイオリンの役割が、もはやピアノの伴奏ではないことを示しています。第2楽章アレグロでは、まずピアノが主旋律を奏し次に全く立場を変えてヴァイオリンが同じ旋律を繰り返しています。つまり二つの楽器の対等な立場を明確にしているのです。

♪モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第1番 変ロ長調 K.207
 18世紀頃のオーケストラは弦楽器が中心になって、管楽器、打楽器が加わる形をとっていました。その弦楽器の主体はヴァイオリンで、指揮者はヴァイオリンの独奏者でもありました。当時作られたセレナード、ディヴェルティメントは殆どこの形をとっており、ヴァイオリンの独奏の多くは緩やかなテンポの楽章で行われました。それが全楽章に及ぶとヴァイオリン協奏曲になったのです。
 モーツァルトのヴァイオリン協奏曲はザルツブルク時代の1775年に集中的に作られた5曲が確認されますが、ヴィーン時代になると1曲もありません。これは注文がなかったからです。 第1番の自筆譜には、1775年4月14日と記載されていますが、記載に手が加えられており、1773年の初め頃に訂正すべきという説が出て『新モーツァルト全集』ではこれによっています。
 第1楽章のアレグロ・モデラートは力強く始まり、まもなく独奏ヴァイオリンが登場します。しかし協奏曲に要求される華麗さよりもハ短調の展開部が強調されます。第2楽章は変ホ長調のアダージョ。セレナード風の美しい楽章です。第3楽章は元気の良いプレスト。ここが一番のききどころでしょう。

♪モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ ホ短調 K.304
 この作品はマンハイムで作られたト長調K.301に続くもので、モーツァルトのヴァイオリン・ソナタの中で、唯一短調の曲です。1778年の夏の初めにパリで書かれたものと考えられ、寂寥感が一貫して流れています。
 第1楽章の冒頭はヴァイオリンとピアノのユニゾンで密やかに始まります。これに続いてフォルテで現れる短いモティーフは、対照的に激しく、ことに再現部の冒頭でこの二つが一緒になるところは、同行した母が旅先で死ぬというショックをあらわに表現しているかのようです。第2楽章は心にしみるような美しい旋律で始まります。
(井上太郎)

♪モーツァルト:ヴァイオリン協奏曲第7番ニ長調 K.271a (271i) 偽作?
 モーツァルトはソロのヴァイオリンのために7つの協奏曲を書いたという説が主流であったこともありますが、それらはすべて、彼が本格的にピアニストとして活躍する以前の3回のイタリア旅行から帰ってきた後、ザルツブルク宮廷時代の1773-77年頃の作品です。しかし、今日では、自筆譜、写本その他の記録等により、始めの5つ(K.207、211、216、218、219)が自作であり、残りの6番(K.268)と7番は偽作とする説が一般的で、演奏される機会も極めて少ないです。1907年にブライトコップ社から出版された7番については自筆譜が1837年ごろ消失していること、2つの写本の一つであるパリのパート譜に1777年7月16日にザルツブルクで作曲されたとあるもののその書法に19世紀のフランス風の名人芸的技巧がみられるなどモーツァルト的でないとして当初から真贋論争があって解決を見ていません。第2楽章についてはモーツァルト学者のアインシュタインが明らかに「拙劣な書法」と評し、第3楽章ではモーツァルトがパリで作曲したバレエ音楽「レ・プティ・リアン」(K.299b)の第6曲のガヴォットと同じ旋律が副主題として出るのが注目されます。なお、同じ77年にはフランスの女流ピアニストのために作曲された名曲ピアノ協奏曲第9番「ジュナミ」(K.271)があることを付記しておきます。
 (吉野 忠彦)


◎演奏者のプロフィール


トロイ・グーギンス ヴァイオリン

 アメリカ・コロラド州出身の日系3世。1987年、クリーブランド音楽大学大学院卒業。同年、山形交響楽団の招待演奏家として来日。1989年よりオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)第1ヴァイオリン奏者となる。来日以降、日米両方の特徴を持つキャラクターが人気を博し、OEKを通じて音楽の楽しさを多くの人々に伝える役目を担っている。OEKの活動に自身の小編成のサロンコンサートなどを含めると、年間130回以上の本番コンサートをこなしており、その演奏技術の高さには定評がある。一方、「音楽家である前に一人の人間として何か自分にできることをしたい」という思いをモットーとし、積極的に地域の子どもたちをはじめ幅広い世代への音楽会を開催。また後進の指導などにも意欲的に取り組んでいる。レパートリーは幅広く、ジャンルを超えて様々なアーティストと共演しており、インターナショナルでフレンドリーな個性を武器に、新しい音楽ファンを拡大している。石川県・富山県をはじめ北陸を中心に活動しているが、最近は湘南モーツァルト愛好会とのコラボなど、人とのつながりを大切にした音楽交流は徐々に広がりつつありライフワークとなっている。

相川 陽子(あいかわ ようこ) ピアノ

 北鎌倉女子学園中・高音楽科を経て、桐朋学園大学ピアノ科及び同大学アンサンブルディプロマ修了。ソロの他にアンサンブルピアニストとしても多数の演奏会に出演。小澤征爾音楽塾、同氏による指揮マスタークラスのピアニストを務め、オーケストラの鍵盤楽器奏者としても活躍している。テノールの五郎部俊朗氏とは5枚のCDをリリース。京都芸術祭最優秀協演賞受賞。




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