第165回例会の内容紹介


♪佐藤 久成・杉谷 昭子ジョイント・コンサート
    ― 宇野 功芳氏をしのんで

2018.3.4 14:00〜17:00 藤沢リラホール(第165回)

出演:佐藤 久成(Vn)
   杉谷 昭子(Pf)
          
曲目:

モーツァルト作曲:
♪ヴァイオリン・ソナタ ハ長調  K.296
♪ヴァイオリン・ソナタ 変ロ長調 K.454

ヨハネス・ブラームス作曲:
♪ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調
          Op78「雨の歌」


当日のプログラムより

 曲目解説
 
♪モーツァルト作曲 ヴァイオリン・ソナタ ハ長調 K.296
 モーツァルトが22歳だった1778年3月11日にマンハイムで完成したこの曲は、彼が母とマンハイムを訪れた時に滞在した宮中顧問官ゼーラリウス家の娘でモーツアルトにピアノを習っていた15歳になるテレーゼ・ピエロンのために作ったものといわれ、そしてマンハイムからパリに発つさいに献呈されたものだった。
 この曲はその後作った曲とともに、ウィーンで出版されている。全体に平明で快活、親しみやすい。
 第1楽章ハ長調はピアノが主体でヴァイオリンは序奏めいて始まる。この楽章は「我が家の妖精」とモーツアルトが手紙で言っているピエロンのポートレートさながらである。
 第2楽章ヘ長調はクリスティアン・バッハのアリア《甘いそよ風》に基づく美しい曲。
 第3楽章ハ長調は2つの楽器の愉快な対話を思わせる。

♪モーツァルト作曲 ヴァイオリン・ソナタ 変ロ長調 K.454
 この作品はこのジャンルの中で最高傑作とされているものだ。作曲されたのは1784年でマントヴァ生まれの優れたヴァイオリニストのために書いたものだが、書き上げる時間がなかったらしく、自筆楽譜を見ると、薄いインクで書かれたヴァイオリンのパートだけを見ながら、頭に浮かぶピアノのパートで演奏したと思われる。その証拠に、ピアノのパートは後から書いたことが明らかな別の濃いインクで書かれており、しかもヴァイオリンのパートに引かれた小節線をはみ出ている部分が少なくないのだ。
 第1楽章はラルゴの序奏で始まる。これは堂々として気品があり、この傑作の開始にふさわしく、二つの楽器が黄金の均衡を保っている。アレグロの主部は溌刺とした主題で開始し、二つの楽器は対等に絡み合う。展開部は半音階と短調により、情熱的なロマンティシズムを感じさせる。
 第2楽章は変ホ長調のアンダンテ。ヴァイオリンが奏する伸びやかな第1主題で始まる。展開部は哀愁をたたえた変ロ短調で開始し、それがロ短調、ハ短調と意表をつく転調を重ねてゆく。このあたりは、最も心に迫るところだ。
 第3楽章は親しみやすい主題で始まるロンド。
 この曲の初演はケルントナー門劇場で行われ、ときの皇帝も臨席したという。この曲はその年の8月にウィーンで出版された。モーツァルトの人気絶頂期にあたる曲と言えよう
(井上太郎)

♪J.ブラームス作曲:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調
    Op78「雨の歌」

 ドイツ音楽の「3大B」の一人に数えられるヨハネス・ブラームス(1833-97)はベートーヴェンを非常に敬愛しまたその作品を強く意識していた。それは特に交響曲や弦楽4重奏曲の面で著しかったが、数少ない(3曲の)ヴァイオリン・ソナタでもうかがえる。彼は作品の発表には極めて慎重であり、後世に残すべきでないと考えた若いころの作品を惜しげもなく破棄してしまっている。かくして弦楽4重奏曲は20曲、ヴァイオリン・ソナタも少なくともこの第1番以前の3曲は破棄されたという。本日のソナタの第1番は彼が40代半ばの1878/9年に南部オーストリアの風光明媚な避暑地であるヴェルト湖畔のペルチャッハで過ごした際に書かれた自信作で同じ頃有名なヴァイオリン協奏曲も作曲されている。
 副題に「雨の歌」とつけられているのは3つの楽章全てーー特に第3楽章――に彼自身の歌曲「雨の歌」(作品59-3、詩クラウス・グロート、1873)が引用されているからであるが、ブラームス自身の命名ではない。雨だれの音で子供の時を回想するこの歌を師のシューマンの夫人クララが非常に気に入っており、ソナタの完成後直ちに彼女に楽譜の写しを送って喜ばせている。初演はプライヴェートでヨーゼフ・ヨアヒムとブラームスによって行われ、公式には79年11月8日にロベルト・ヘックマン夫妻によってボンで行われた。曲は以下の3楽章からなる。
Tヴィヴァーチェ・マ・ノン・トロッポ ト長調
ソナタ形式。冒頭に出る第1主題の旋律は「雨の歌」の冒頭動機による。
Uアダージョ 変ホ長調
 3部形式からなるが、中間部はその開始が葬送行進曲風の付点リズムの楽想でこれも「雨の歌」の冒頭動機と関連している。
Vアレグロ・モルト・モデラート ト短調ート長調
 ロンド形式。「雨の歌」がはっきりと姿を現す。また第2楽章の主部の主題が第2副主題として登場し、全曲の有機的構成がみてとれる。
それではブラームスの「雨だれ」をお楽しみください。
(吉野 忠彦)

◎講演者のプロフィール


佐藤 久成(さとう ひさや) ヴァイオリン
東京芸術大学附属音楽高校を経て、東京芸術大学卒業後渡欧。ロームMF奨学生や特別奨学生として、ザールラント音楽大学、ブリュッセル音楽院、スタウファー音楽院、ベルリン芸術大学で研鑽を積む。日本演奏連盟賞受賞。リッチ、ルガーノ、ルイス・シガル、ベオグラード、ヴィオッティ等の国際コンクールで優勝、入賞。1994年、ベルリン交響楽団定期公演のソリストとしてヨーロッパデビュー。ベルリン響、ベオグラードフィル、ルーマニア国立響、ベルリン室内管、サンティアゴ響などと共演。ドイツ公共放送、ラジオフランス、イタリア放送、NHKにソリストとして出演。ライフワークとして、数万曲に及ぶ数々の未知の絶版楽譜を世界中で収集、それらの知られざる作曲家や忘れられた作品の発掘に力を注ぎ、紹介・初演・レコーディングを積極的に行う。2002年、カザルスホールにてデビューリサイタル、以降、毎年東京でリサイタルを開催。ワインガルトナーのソナタ集や伊福部昭の協奏曲集をはじめとするCDを発表、各メディアや書籍への執筆活動も精力的に行い、これまで「哀愁のラメント」「トリスタンとイゾルデ」「ニーベルングの指輪」「オード・エロティーク」「魔界のヴァイオリン」「エヴァカシオン」「魔界のヴァイオリンU」「HISAYA魔弓のレジェンド」を続々とリリース。その多くのCDがレコード芸術誌「特選盤」に選出。各誌、各新聞紙上で高い評価を得る。日本経済新聞朝刊文化欄に「よみがえれ埋もれた名曲」の見出しで独自の活動が取り上げられ、大きな反響を呼び、モーストリー・クラシック誌「最新格付け!世界の名ヴァイオリニスト」に選ばれた。2015年、大阪フィル、仙台フィルと共演し、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲のライブCDをリリース。また、2016年には群馬交響楽団と定期演奏会にて共演。

杉谷 昭子(すぎたに しょうこ) ピアノ
和歌山県和歌山市出身。東京芸術大学卒業後、1976年ケルン音楽大学院修了。矢田映子、井口秋子、デトレフ・クラウス、エリーゼ・ハンゼン、ブルーノ・レオナルド・ゲルバー、アレクシス・ワイセンベルク、クラウディオ・アラウ等に師事。旧西独演奏家国家試験で1等賞を獲得することになるブラームスのピアノ協奏曲第1番の演奏が、大手マネージャーに認められ、デュッセルドルフでデビューする。1971年エッセンフォルクヴァングコンクール優勝。72年マリア・カナルス国際コンクール2位。ミラノ音楽祭出演。73年ヴィオッティ国際コンクール銀賞。クララ・シューマン国際ピアノ・コンクール(デュッセルドルフ)の審査員をマルタ・アルゲリッチ、A・ワイセンベルク、ウラディーミル・アシュケナージと並んで歴任するなど、ピアノ教育家としても活躍。平成17年度和歌山文化賞受賞。国内外でのCDも多く、ユニバーサル・ミュージックよりベートーヴェン・ピアノ・ソナタ全集が発売されている他、ポリグラムより発売の「カタリ・カタリ」はロングセラーとなっている。現在、日本とドイツを中心に演奏活動を行っており、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスターであったヴェルナー・ヒンクとのデュオを行ったり、ライプツィヒ・ゲヴァントハウス室内楽定期演奏会には定期的に招聘され、又ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団のトップ・メンバーとも室内楽の演奏会を各地で展開しており、その精力的な演奏活動は多くの識者の注目を浴びながら、現在に至っている。2010年、「ヨーロッパ国際ピアノ・コンクールin Japan」を創立し、低年齢化と共に正確で抜群の超絶技巧を追求する昨今のコンクールよりも、音楽性の豊かさと円熟度を重視する方針で選考を行っている。クラウディオ・アラウの最後の弟子として国際的にも評価が高い。



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