第167回例会の内容紹介


木野雅之と仲間達による弦楽五重奏

2018.6.24   14:00〜17:00 藤沢リラホール(第167回)


当日のプログラムより

 
出演 
木野雅之(Vn)、 田村昭博(Vn)、
内山隆達(Va)、冨田大輔(Va)、 長南牧人(Vc)

演奏曲目

モーツァルト作曲
♪弦楽五重奏曲  ハ長調   K515
 
ブラームス作曲
♪弦楽五重奏曲第1番 へ長調 OP 88

 曲目解説
♪モーツァルト作曲 弦楽五重奏曲 ハ長調 K.515
 弦楽五重奏曲はモーツァルトの室内楽の中でもひときわ重要な存在である。それというのも、ヨーゼフ・ハイドンの弟のミヒャエル・ハイドンが1773年2月に完成した作品から影響を受けて書いたと思われる変ロ長調K.174以外には後期の作品しかないからである。
 後期のものは今日演奏されるハ長調K.515のほかに、ト短調K.516、ニ長調K.593、変ホ長調K.614があるだけだ。
 弦楽五重奏曲は弦楽四重奏曲にもう一つ楽器を加えたものだが、それがヴァイオリンではなく、チェロでもなく、モーツァルトが愛好したというヴィオラであることで、弦楽四重奏曲とは一味違う味わいが生まれるのである。
 今日演奏されるK.515は小節数が1,149もあり《ジュピター交響曲》の924小節をしのぐ堂々たる大曲である。彼の自作品目録には1787年4月19日と記載されており、この後にはト短調の弦楽五重奏曲K.516が5月16日の日付で記載されている。
 つまりこの2曲は1788年の夏に作られた第40番ト短調K.550と第41番ハ長調K.551の2曲の大交響曲を生み出す契機となっているとさえ思われるのだ。
 第1楽章アレグロは、チェロの主題が最低音のハからハ長調の主和音をたどって上昇し、それが終わると第1ヴァイオリンが高々と応える形で始まる。続いてチェロの上昇がハ長調の属7の和音をたどってゆく。その広がりは4オクターブに達する。なんと雄大な主題提示だろう。この主題が今度は第1ヴァイオリンにハ短調で出てくるなど、展開部での多様な変化が著しい。
 第2楽章はヘ長調のアンダンテ。第1ヴィオラが第1ヴァイオリンと対等に目覚ましく活躍する。第3楽章はハ長調のメヌエット。中間にヘ長調のトリオがあり、こちらの方が面白い。
 第4楽章はハ長調のアレグロ。冒頭の生き生きした主題は、第1楽章の重厚さと対照的で、対位法による処理が目覚ましい。
 この曲はおそらくウィーンで初演されたと思われるが、その時モーツァルトは第1ヴィオラを弾いたのではなかろうか。
                         井上太郎


♪ブラームス:弦楽五重奏曲第1番 ヘ長調 作品88
 ヨハネス・ブラームス(1833-1897)は他の多くのロマン派の作曲家同様ベートーヴェンを崇拝していたが、モーツァルト、ハイドンをも敬愛していた。特にモーツァルトの影響は晩年に書かれたクラリネット五重奏曲ロ短調(作品115、1891年)や弦楽四重奏曲にヴィオラをさらに1つ加えたモーツァルトのスタイルでの弦楽五重奏曲2曲(この第1番ヘ長調Op88,1882年と2年前に当例会で演奏された第2番ト長調、1890)に著しい。あまり社交的でなかった彼は、夏にはウィーンを離れ、ゆっくり落ち着ける風光明媚な避暑地に行って作曲活動を続けたが、この2曲の五重奏曲もオーストリア=ハンガリー帝国の夏の「帝都」ともいうべきザルツカンマーグート地方の保養地バート・イシュルの別荘で書き上げている。
 ブラームス49歳の円熟期の作品で、翌年には交響曲第3番(Op90)が書かれてもいるが、本曲もスケールのきわめて大きな曲となり、またヴィオラを2つにしたこともあって内声部が見事に充実したものとなっている。珍しいのは3楽章形式となっているころで(第2番は4楽章)、1882年6月ごろ完成された。7月中旬に楽譜を彼の出版社ジムロックに送った際、「私は、今までに貴方がこのように美しい曲を私から受け取ったことがないと思います。また、貴方もここ十年来こんな曲を出版しなかったでしょう」と述べている。
 第1楽章では、美しい第1主題に続く第2主題は、同じ小節の中で2拍子と3拍子が絡み合うように書かれていて、そこにブラームス得意のシンコペーションの旋律が混じりあって、心が揺すられるような感じ。第1楽章と同じくらい長大な第2楽章は、緩徐楽章の間に急速なスケルツォ的な要素が含まれるというユニークな構成で、この中間楽章は4楽章形式の第2楽章と第3楽章を合わせたもののように思われる。第3楽章は非常に明るく楽しく高揚して終わる。
 なお、モーツァルトが名手A・シュタードラーに出会ってクラリネット五重奏曲を書いたように、1891年、ブラームスもR・ミュールフェルトというマイニンゲンの宮廷管弦楽団の名手によって啓発され、五重奏曲をはじめとするクラリネット3部作という最晩年の名作を残すことになったのである。
第1楽章:アレグロ・ノン・トロッポ、マ・コン・ブリオ
第2楽章:グラーヴェ・エド・アッパショナート
第3楽章:アレグロ・エネルジートープレスト
                       吉野忠彦


◎講演者のプロフィール
木野 雅之 1st Vn
 桐朋学園を経て、1982年ロンドンのギルドホール音楽院に学び、イフラ・ニーマン教授に師事する。卒業後、ナタン・ミルシュタイン、ルッジエーロ・リッチ、イヴリ−・ギトリスの3人の巨匠に師事し研鑚を積む。84年、ロンドンで開催されたカール・フレッシュ国際ヴァイオリン・コンクールや、87年には『ロイヤルオ−ケストラ協会シルバーメタル』(英国)を授与されるなど英国を拠点にコンサート活動を行っており、ロイヤル・フィル、ベルリン響、ポーランド国立放送響、モスクワ放送響などとも共演している。名古屋フィルハーモニー交響楽団のコンサートマスターを経て、93年より日本フィルハ−モニー交響楽団のコンサートマスターに、02年ソロ・コンサートマスターに就任。世界各地でのマスタークラスを始め、桐朋学園大学、武蔵野音楽大学、東京音楽大学で後進の指導にあたっている。使用楽器は恩師リッチから譲り受けた1776年製ロレンツォ・ストリオーニ。

田村 昭博、2nd Vn
 4歳よりヴァイオリンを始める。国立音楽大学音楽学部器楽学科(ヴァイオリン専攻)を卒業。2004年に日本フィルハーモニー交響楽団に入団、現在第1ヴァイオリン奏者。その他、エラン弦楽四重奏団のメンバー。また、浦和ユースオーケストラ等のトレーナーを務めるなど後進の指導にもあたっている。これまでに故石井洋之助、石井志都子、野波健彦、荒井雅至、石井啓一郎、扇谷泰朋の各氏に師事。

冨田 大輔 Va
 愛知県立芸術大学を経て、東京芸術大学音楽学部を卒業。同大学院修士課程修了。第3回みえ音楽コンクールヴィオラ部門第1位。第13回日本クラシック音楽コンクール弦楽部門全国大会第4位。小沢征爾音楽塾オペラ・プロジェクトや東京のオペラの森に出演。現在、日本フィルハーモニー交響楽団ヴィオラ奏者。これまでにヴィオラを野上阜三博・兎束俊之・川崎和憲・岡田伸夫の各氏に師事。

内山 隆達 Va
 16歳よりヴァイオリンを始める。愛知県立芸術大学にヴィオラで入学。在学中、若手奏者のためのコンペティション弦楽四重奏部門第1位併せて県知事賞受賞。これまでにヴァイオリンを故大沢和夫、服部芳子の各氏に、ヴィオラを兎束俊之、百武由紀、店村眞積、タッソー・アダモプーロス、今井信子の各氏に、室内楽を松原勝也、田中雅弘の各氏に師事。現在東京都内を中心にオーケストラ、室内楽などで活動している。

長南 牧人 Vc
 12歳より才能教育研究会でチェロを始め、東京音楽大学付属高校卒業後渡仏。パリ・エコール・ノルマル音楽院に入学、チェロと室内楽のデイプロマを取得帰国後、東京芸術大学音楽学部器楽科に入学、1993年より財団法人神奈川フィルハーモニー管弦楽団のチェロ奏者をつとめる。これまでに 勝田聡一、レーヌ・フラショー、堀江泰氏、花崎薫、菅野博文各氏に師事。




 



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