第170回例会の内容紹介


講演:吉野 忠彦 「魔笛のその後」

2019.1.27  14:00〜17:00 鎌倉婦人子供会館(第170回)


当日のプログラムより

 

T オペラ「魔笛」
◎初演(1791年9月30日)
 ・モーツァルトの最後のオペラで、3つのオペラのジャンルの集大成。
 ・モーツァルトの生存中にヒットし始め、次第にドイツ語圏さらには
外国でも。
 ・今日でもドイツオペラの先駆けとして、世界のオペラ座の重要なレ
パートリーとして定着。

◎台本作家/興行師エマニュエル・シカネーダー(1751-1812)
・類まれなる才能:歌手、役者、マネージャー。多くの恋愛スキャンダル。
・旅回りの一座、ザルツブルクでモーツァルト一家との付き合い(1780)
・ウィーンで皇帝の御用役者(1785-86)になった後も資金を集めるためザルツブルクやアウグスブルクなどへ巡業。1788年にレーゲンスブルクの劇場監督の座を追われ、ウィーンに定住。
・妻との縁で獲得したウィーン城壁外の劇場:テアター・アウフ・デア・ヴィーデン(フライハウス)。後にはテアター・アン・デア・ヴィーンを建て「フィデリオ」を初演。

U 「魔笛」上演の影響、余波
◎大ヒットとなり、モーツァルトの死後ウィーン以外のドイツ語
圏から他国のオペラ劇場へ(1801仏語、「イシスの秘教」)
・多くの類似、模倣作品や続編の登場:有名なものはゲーテの第2部(1795、未完)

◎シカネーダー自身の続編(ペーター・フォン・ヴィンター作曲 1798)
・フリーメーソン(タミーノ)の色彩薄められ、戦闘的な要素、大衆(パパゲーノ)の力が強くなる(フランス革命、ナポレオン戦争の影響)

◎しかしいずれの作品も「魔笛」をしのぐことはなかった。
・「魔笛」は芸術的なドイツオペラ(やオペレッタ)の先駆け:「フィデリオ」−「魔弾の射手」(ロマン派)−ヴァークナーの楽劇−R・シュトラウスの作品等。
 ・今日も重要なオペラ座のレパートリー、過激な演出も・・・

当日配布したレジュメ
「魔笛」のその後〜続編としての「迷宮」への道
                    吉野 忠彦

◎「魔笛」の上演 1791年9月30日

 ・モーツァルトの最後のオペラで、ドイツ・オペラ(ジングシュピール)の最高傑作
 1790年即位したレオポルト2世の、兄ヨーゼフ2世の啓蒙主義的政策を否定し、フランス革命に対抗するような政治状況下での初演

 ・音楽界では、ヨーゼフのお気に入りの楽長サリエリはイタオペ指揮者解任、ダ・ポンテ追放、モーツァルトのみ宮廷作曲家にとどまったが、オペラの作曲の依頼はなし。宮廷劇場では皇后の意向もあり古いオペラ・セリア(カストラート付き)が、再登場、古い宗教音楽も復活

・フリーメーソンも、革命の要因として危険視され弾圧の方向へ

・失望したモーツァルトは宮廷外にその活動の場を探す:シュテファン大聖堂副楽長就任や旧知の興行師シカネーダーの依頼で大衆向けのジングシュピールに活路:結果が「魔笛」

◎エマニュエル・シカネーダー(1751−1812)という人

 ・バイエルン選帝侯国シュトラウビングの貧民の生まれ、レーゲンスブルクで歌唱を覚え、才能を認められ小劇団に入って役者、歌手として笑劇やジングシュピールを演じ77年(26歳)、ミュンヘンでの「ハムレット」でスターに。団の女優エレオノーレと結婚、一座を任され各地を巡業、多数の恋愛スキャンダルとともに多くの戯曲も書いた。1780年にモーツァルト一家とザルツブルクで知り合い、親交を深める。ミュンヘンへ旅立つ直前のモーツァルトが歌を書く約束。彼は時代の変化に敏感で、大衆の好みを的確に把握:多数のスペキュタクル(気球、戦争など)上演

 ・84年ウィーンを訪れ、ヨーゼフ皇帝にその才能を認められるがボーマルシェの「フィガロの結婚」のドイツ語翻訳版上演は、初演当日に勅令で禁止に。しかしお気に入りの役者として宮廷劇場で脇役などを演じ(この間一座は離婚した妻エレオノーレ中心に別行動)、皇帝から新劇場の建設の許可を入手。しかし資金がなく再び巡業へ:レーゲンスブルクの劇場の監督になり気球や戦争のスペクタルもので成功するが、陰謀と仲間割れで追放、トップ歌手シャックとゲルル夫婦2組とともにウィーへ戻る(1788年)。翌年妻とパートナーを組み、ウィーン城壁外のアウフ・デア・ヴィーデン劇場を自分の手に。同業のレオポルトシュタット劇場と優劣を競いながら、多くのジングシュピールの新作を上演。90年に「賢者の石」(「魔笛」と同じ原作、モーツァルトも一部担当)、その延長で「魔笛」が作られることに。91年7月にはほぼ完成していたが、宮廷よりプラークでの戴冠式用の祝祭オペラ(セリア)「皇帝ティートの仁慈」を依頼され、プラークから帰還後に序曲などを入れ9月28日完成、30日にモーツァルト指揮で上演。
 
◎「魔笛」の性格
・当時弾圧されつつあったフリーメーソンへの賛歌:故ヨーゼフ帝へのモーツァルトの追悼?
大衆向けのメルヒェンの体裁をとりつつ荘重で、厳粛な雰囲気を持つ(特にイニシエーションとしての試練の場)

・フランス革命時に流行した「救出オペラ」としての色彩も(vgl:ベートーヴェン:「フィデリオ」)

・モーツァルトがそれまでに書いたオペラの3つのジャンルの集大成
 
 例:オペラ・セリア(正歌劇)――「夜の女王」のアリア
   オペラ・ブッファ(喜歌劇)――パパゲーノのアリア
   ドイツ民謡風――パパゲーノのアリア
   重唱――パパゲーノとパミーナの2重唱、パパゲーノとパパゲーナの2重唱、タミーノ+パパゲーノ+3人の侍女の5重唱
   バッハ風のコラールーー2人の騎士の重唱

・第1幕の途中で善悪が逆転――ストーリーが複雑になり、数々の矛盾が発生

・女性や黒人に対する蔑視もある一方、フリーメーソン(試練)に女性(パミーナ)も入れる

・支配するもの(君主)とされるもの(大衆)の差:(道)徳、(最後の場にパパゲーノはいない)。

・「魔笛」は結果としてヨーゼフが目指した高い芸術性を持ったドイツオペラ(やオペレッタ)の先駆けに:この後「フィデリオ」−「魔弾の射手」−ヴァークナーの楽劇―R・シュトラウス

◎ドイツ語圏のみでなく、外国語版も多数

・1801年には仏語版(「イシスの秘教」)、

・この年6月、テアター・アン・デア・ヴィーンが?落とし、この頃までの10年間がシカネーダーの全盛期。404もの作品上演、モーツァルトの没後もウィーンで書いた作品を上演し、ハイドン、モーツァルト、若いベートーヴェンの作品を中心とするコンサート(アカデミー)も。

◎模倣や類似の作品多数。続編も

・多くは粗製濫造。魔法オペラや巨大な舞台装置のスペクタクルへ莫大な資金を投入。中には「慈善を施す托鉢僧」(シャックなどの合作93年)、「アルカディアの鏡」(ジュスマイヤー94年)、「イタカの皇子」(ホフマイスター95年)、「地獄の山」(ヴェルフル96年)、「バビロンのピラミッド」(ヴィンター97年)などモーツァルトと関連のあった作曲者の作品も。しかし、シカネーダーの台本には多くの批判が(特にウィーン訛のセリフはドイツ人に受け入れられない。「シカネーデライ」)。・・・彼のやり方についてコンスタンツェも「搾取者」として厳しい非難。(ニッセンのモーツァルト伝記)

・続編で名高いのはゲーテの「魔笛第2部」(1795 未完)とシカネーダー自身の続編。
ゲーテはヴァイマールで劇場の総監督も務め、義弟のクリスティアン・ヴルピウスが勝手に改ざんした「魔笛」などの多くの上演をシカネーダーの名前抜きに行った。

◎シカネーダー自身の続編「迷宮または諸元素との戦い」(1798)(あらすじは別添)

・作曲はバイエルンの宮廷楽長のペーター・フォン・ヴィンター(1754−1825)
 シカネーダーと組んで「バビロンのピラミッド(1797)と「迷路」その他に「マホメット」(1817)

・フリーメーソン色は明らかに後退。

・タミーノ(君主)の影が薄くなり、パパゲーノ(民衆)が強く描かれる。(試練)

・戦い(決闘)という暴力的な要素が出現:フランス革命、ナポレオン戦争を反映

◎シカネーダーはすべての財産を芝居に使い果たし、テアター・アン・デア・ヴィーンも売却、破産、再びブリュンなどへ遠征。1812年、アルツハイマー(狂気)で死去。

◎モーツァルトの「魔笛」をしのぐ作品は今日まで現れていない。世界中で愛され演奏されている。

◎講演者のプロフィール
吉野 忠彦(よしの ただひこ)
1942年、東京生まれ。1965年東京大学卒業後、日本興行銀行に入行し、主として海外、調査畑を歩く。1989―94年ルクセンブルク日本興業銀行社長時代に日本人子弟の為の補習授業校設立及び運営に寄与する。1994年、ルクセンブルク大公国よりオフィシエ勲功賞を受勲。96年から10年間駐日ルクセンブルク大公国名誉副領事。2000-01年には上智大学外国語学部ドイツ語学科でドイツ、EU経済について、また07-08年には学習院女子大学でドイツ文化論の講義を行う。ハプスブルク、ロマノフ、ブルボン、ナポレオン諸王朝やモーツァルト、ウインナ・ワルツ及びオペレッタ及び杉原千畝氏等に関する講演及びコンサートアレンジメント、欧州へのツアーガイドを積極的に行っている。現在、日本エストニア友好協会会長、湘南モーツァルト愛好会副会長、鎌倉プロバス・クラブ副会長、学習院生涯学習センター講師。2017年2月エストニア大統領より外国民間人のための最高勲章テッラ・マリアーナ十字勲章受勲。




 



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