第173回例会の内容紹介


3人の若手によるモーツァルトの室内楽

2019.6.23 14:00〜17:00  藤沢リラホール(第173回)


当日のプログラムより

 
出演:トロイ・グーギンス (Vn) 内山隆達 (Va) 野田清隆 (Pf)

曲目:

モーツァルト作曲:
  ♪ピアノソナタ 第13番 変ロ長調 K333
  ♪ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲  第2番
                変ロ長調  K424
  ♪ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲
           (ピアノ伴奏版) 変ホ長調 K364

 曲目解説
                     井上太郎
♪モーツァルト:ピアノ・ソナタ第13番 変ロ長調 K.333

 この作品は1783年頃にリンツで作られたとされている。
 第1楽章の開始は流麗そのものだ。しかし展開部で短調になり、暗い陰がよぎる。だがそれは長くない。
 第2楽章は変ホ長調のアンダンテ・カンタービレ。ソナタ形式で書かれた旋律の流れが美しく、展開部では短調を巧みに使って、幻想の世界をかいま見せる。
 第3楽章アレグレット・グラツィオーソは親しみやすい主題で始まり、低音の半音階上昇など旋律の変化に富んでいる。

♪モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための二重奏曲 第2番 変ロ長調 K.424
 この曲には特別のエピソードがあるので、それから始めよう。1783年7月末、モーツァルトは結婚後初めて故郷のザルツブルクを訪れるが、その時、僚友のミヒャエル・ハイドン(有名なヨーゼフ・ハイドンの弟)に会う。彼はザルツブルクの大司教コロレードから、6曲の弦楽二重奏曲の注文を受けていた。しかし病気になって最後の2曲がどうしても作れず、悩んでいたのだった。そこでモーツァルトは早速これを書き上げ、ハイドンの名で大司教に届けたと言う。
 この事実をハイドンは秘しておいたらしく、あきらかになったのは大司教が職を退き、モーツァルトが死んでからであったと言われている。
 モーツァルトはこれを書くにあたりハイドンにはない調を選んでおり、変ロ長調の第1楽章は四分の四拍子の序奏で始めている。これを聴いて大司教はどう思ったであろう。
 第1楽章はアダージョの序奏で始まり主部のアレグロでは遠隔調の転調を見せたりする。第2楽章アンダン・テカンタービレは変ホ長調。短いが美しい。第3楽章はアンダンテ・グラッツィオーソの主題と変奏曲である。
 この自筆楽譜を私はザルツブルクの記念館で見たことがあるが、走り書きながら訂正の痕跡がなく、一挙に書いたものと思われた。
 ここで独奏弦楽器だけで合奏するモーツァルトの室内楽の曲数を見てみよう。弦楽四重奏曲が最も多く23曲あり、次に弦楽五重奏曲が6曲、弦楽二重奏曲が2曲。ほかにディヴェルティメントと名付けられた弦楽三重奏曲が1曲ある。
 ヴァイオリンの独奏は数多くあるコンチェルトやソナタでナマ演奏が聴けるけれども、ヴィオラはこの2曲以外に独奏の形で聴ける曲を私は知らない。
 天皇陛下はヴィオラの演奏がお好きとうかがいますので、あるいはご存知かもしれません。
 モーツァルトはヴァイオリンよりもヴィオラが好きだったらしく、仲間同士で弦楽四重奏曲をやる時には、かならずヴィオラを弾いたという。それがこの素晴らしい曲を生む動機となったらしい。

♪モーツァルト:ヴァイオリンとヴィオラのための協奏交響曲 変ホ長調  (ピアノ伴奏版) K.364
 1778年パリにいた頃の23歳のモーツァルトは、当時流行していた協奏交響曲の注文を受け、早速とりかかったが、書きかけの自筆楽譜が盗まれる事件が起きる。そのため上演もされなかった。しかし彼は屈せず、故郷のザルツブルクに帰った翌1779年に新たに作る。
 この原曲は管楽器を含む大編成のオーケストラだが、今日は弦楽合奏とピアノ伴奏で演奏される。
 オーケストラの原曲に見られるように、この曲ではヴァイオリンだけでなく、ヴィオラの活躍が目覚ましい。それは二部に分かれるヴァイオリンと同様にヴィオラも二部に分かれて演奏するからである。また独奏するヴィオラはニ長調に表記されている。これはヴィオラを半音高く調弦することを意味する。それによりヴィオラはヴァイオリンと同等の輝きが出せるのだ。 第1楽章は堂々と始まる。この開始は協奏曲というより、交響曲的要素が強い。
 第2楽章はハ短調。ヴァイオリとヴィオラが響きあう詠嘆調は聴く者の心に迫る。
 第3楽章は一転、軽やかなプレスト。このように協奏曲的要素と交響曲的要素を見事に調和させたこの曲は、作曲者にとって、まさに快心の出来だったに違いない。 

◎出演者のプロフィール

トロイ・グーギンス ヴァイオリン
アメリカ・コロラド州出身の日系3世。1987年、クリーブランド音楽大学大学院卒業。同年、山形交響楽団の招待演奏家として来日。1989年よりオーケストラ・アンサンブル金沢(OEK)第1ヴァイオリン奏者となる。来日以降、日米両方の特徴を持つキャラクターが人気を博し、OEKを通じて音楽の楽しさを多くの人々に伝える役目を担っている。OEKの活動に自身の小編成のサロンコンサートなどを含めると、年間130回以上の本番コンサートをこなしており、その演奏技術の高さには定評がある。

内山 隆達(うちやま たかみち) ヴィオラ
16歳よりヴァイオリンを始める。愛知県立芸術大学にヴィオラで入学。在学中、若手奏者のためのコンペティション弦楽四重奏部門第1位併せて県知事賞受賞。これまでにヴァイオリンを故大沢和夫、服部芳子の各氏に、ヴィオラを兎束俊之、百武由紀、店村眞積、タッソー・アダモプーロス、今井信子の各氏に、室内楽を松原勝也、田中雅弘の各氏に師事。現在東京都内を中心にオーケストラ、室内楽などで活動している。

野田 清隆(のだ きよたか) ピアノ
東京藝術大学および大学院修士課程修了後、ブラームスと20世紀作品を組み合わせた一連のリサイタルにより同大学院で博士号を取得。1995年日本音楽コンクール第1位および各賞を受賞。室内楽で内外の名手と共演を重ねるかたわら、ソリストとして読売日響、日本フィル、東京シティフィル、東京藝大フィル、名古屋フィル、京都市響、大阪響などに客演。現在、東京学芸大学准教授、ならびに東京音楽大学指揮科特別アドヴァイザー。東京クライス・アンサンブル、トリオ・エドアルテのメンバー。



 



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