第55回例会の内容紹介
音楽をまじえた講演
モーツァルトのピアノ・コンチェルト
平成12年2月20日 14:00 藤沢産業センター
講師 井上 太郎 会長

モーツァルトのピアノ・コンチェルト(4)
井上 太郎
今回取り上げる曲は、変ホ長調(No.22,K.482)とイ長調(No.23,K.488)とハ短調(No.24,K.491)の3曲です。これらはモーツァルトが書いたピアノ・コンチェルトの中でも最高傑作といってよいものです。
これらの曲の完成の日付は、彼の自作品目毎によるNo.22が1785年12月16日、No.23が翌86年3月2日、No.24が3月24日となっています。しかし彼はいっも複数の作品を平行して書きましたから、いつから書きはじめたのかはわかりません。
ただ時期的には、5月1日にプルク劇場で初演された(フイガロの結婚)K.492の合間に書かれたことは確かで、他に音楽付きの喜劇〈劇場支配人〉K.486も2月3日に完成しています。
〈劇場支配人〉のハ長調の序曲は、〈フイガロ〉と共通する気分を持った曲ですが、3曲のピアノ・コンチェルトは同じ時期の作品であるのに全く違う趣きを持っており、むしろこれ以後に書かれる〈ドン・ジョヴァンニ〉K.627や〈コジ・ファン・トゥッテ〉K.588を先取りしているかのようです。
モーツァルトはピアノ・コンチェルトを言葉のないオペラと考えていたらしく、これによってさまざまな音楽の表現の可能性を探っていたと思われるのです。
No.22は完成されて間もない12月23日にプルク劇場でおこなわれたディッタースドルフ作曲のオラトリオ〈エスター〉の幕間音楽として初演されました。
ところがNo.23はいつ初演されたのかわかりません。No.24は4月7日にプルク劇場で開催された「大音楽会」で初演されたと考えられます。
この3曲に共通するところは、どれにもクラリネットが使われている点ですが、彼の27曲あるピアノ・コンチェルトの中でクラリネットが使われているのはこの3曲だけなのです。この楽器は木管楽器の中ではフルート、オーボエ、ファゴットに比べて新しく、演奏者も多くなかったからでしょう。しかしモーツァルトがこの楽器を好んでいたことは、晩年のすばらしい名作〈クラリネット五重奏曲〉K.581や〈クラリネット・コンチェルト〉K.622からわかります。
モーツァルトがピアノ・コンチェルトを書くときにはいつも12段の五線紙を使っておりますが、No.24では特別に16段の五線紙に書いております。これはクラリネットとオーボエの両方を使っているからです。
つまり彼のピアノ・コンチェルトとしては空前絶後の大編成となっているためで、モーツァルトがこの曲にかけた並々ならぬ意欲の現れといえます。またこの曲の初演がおこなわれたプルク劇場のオーケストラの械能が充実していたことを物語ってもいるのです。
さらにもう一つの特色はNo.22とNo.24が共にフラット3つの調であり、No.23がシャープ3つの調であることです。この調関係はたがいに最も速いものなのになぜモーツァルトはこれを選んだのか、これについてもさまざまな点から考案してみたいと思います。
*さらに詳しく知りたい方のための参考図書
井上太郎著「モーツァルトのいる街」ちくま学芸文庫
M.ソロモン著 石井宏訳「モーツァルト」新書館
R.ランドン監修「モーツァルト大事典」平凡社
海老沢敏・吉田泰輔監修「モーツァルト事典」東京書籍

モーツァルトにおけるハ短調
ウィーンに移り住んで4年になるモーツァルトを、父レーオポルトは1785年2月に訪ね、2月滞在しました。息子の人気と仕事ぶりに、父は驚きの連続だったようです。この頃モーツァルトはフリーメイスンに入会を許され、「自由、平等、博愛」を目指すこの団体の趣旨に強く共感し、熱心な会員の一人としてフリーメイスンのための音楽を幾つか作曲しました。
なかでも自作目録に7月完成と記された〈フリーメイスンの葬送音楽 ハ短調〉K.477は恐らく「死からの再生」を意味する第3階級の儀式のために作曲されたのではないかと考えられます。また11月17日に行なわれた2人の貴族の会員の葬儀の際にも演奏されています。
この頃のモーツァルトにハ短調の重要な作品が幾つかあることは、フリーメイスンの思想が彼の音楽に強い影響を及ぼした一つの証拠でしょう。それというのも、ハ短調の調号がフラット3つで、これは3という数字を重視するフリーメイスンの考え方に通じるからです。
12月に完成したピアノ・コンチェルト22番も、主調は変ホ長調(これもフラット3つ)ですが、第2楽章はハ短調で書かれており、翌86年3月に完成する24番のピアノ・コンチェルトは正しくハ短調なのです。しかもそれから5年後に書かれ、フリーメイスンと深く関わっているとされるオペラ 〈鹿笛〉K.620が、やはりフラット3つの変ホ長調で書かれているのです。

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