湘南モーツァルト愛好会

   

 第67回例会の内容紹介 

  創立10周年記念演奏会

   
平成13年11月4日 14:00 藤沢リラホール
  

プログラム

♪シューベルト:弦楽三重奏曲 変口長調 D.581 
  
♪モーツァルト:ディヴェルティメント 変ホ長調
            K.563(1788年9月27日完成

♪モーツァルト:クラリネット五重奏曲 イ長調
           
K.581(1789年9月29日完成)

第1ヴァイオリン:名倉 淑子
第2ヴァイオリン:大林 典代
ヴィオラ:岡田 伸夫
チェロ:松波 恵子
クラリネット:千葉 直師




曲目解説

                                  井上 太郎

♪シューベルト:弦楽三重奏曲 変口長調 D.581

 シューベルト(1797−1827)はモーツァルト(1756−1791)と同様ウィーンで活躍した。世代は違うがモーツァルトを尊敬し学ぶところが少なくなかったと思われる。シューベルトは弦楽四重奏曲をたくさん書いているが、弦楽三重秦曲で完成されたのはこの1曲だけである。1814年に1曲書き始めて放棄し、1816年には第2楽章の途中で筆を折っている。この形でようやく完成したのは1817年になってからだった。

 第1楽章 アレグロ・モデラートの変口長調の第1主題は快活で、後半のモティーフが活躍する。へ長調の第2主題は第1主題から派生した趣きのもの。展開部ではこれらの主題がカノン風に展開する。 

 第2楽章 アンダンテはシューベルトの得意とするへ長調のさわやかな主題で始まる。中間部にはへ短調の暗い部分もあるが、やがて冒頭のへ長調に戻る。

 第3楽章 メヌエット アレグレットは変口長調。この主題はまるでモーツァルトだが、トリオでゲィオラが奏する舞曲風の旋律はシューベルトらしい。

 第4楽章 ロンド アレグレット。変口長調の主題はハイドンを思わせる。この楽章では・リズムの工夫がいろいろあり、その面白さが聴きどころであろう。

♪モーツァルト:ディヴェルティメント 変ホ長調
            K.563(1788年9月27日完成)

 この曲はディヴェルティメントと名づけられているが、1770年代に数多く作られた曲とは異なり、むしろ弦楽三重奏曲と呼ぶべき深い内面性を持った作品で、彼の室内楽の中で最高傑作とする評価もある。弦楽器3本だけから、さまざまな新しい表現を生み出すモーツァルトの構想の広がりには驚嘆のほかはない。

 第1楽章 アレグロは変ホ長調のユニゾンで始まる。第2主題がヴァイオリンとチェロの高音域の6度の平行で唱われ、ヴィオラが低音を受け持つなど珍しい。陰欝な響きで始まる展開部は、和声的にも対位法的にも最も興味深く、彼の心の深淵を覗くようだ。

 第2楽章 アダージョ 変イ長調で書かれたこの楽章は、第1楽章の展開部に通じる探さがさらに広がっており、正にこの曲の核心と言ってよい。

 第3楽章 メヌエット アレグレット。前の楽章の緊張感を解きほぐすかのような変ホ長調の楽章。

 第4楽章 アンダンテは変口長調の変奏曲で、主題はチロル民謡から取られた。この変奏のやり方は極めてユニークで、主題は細分化されている。

 第5楽章 メヌエット 変ホ長調のアレグレットで始まり、トリオが2つあって最後にコーダがつく。

 第6楽章 アレグレットは変ホ長調。8分の6拍子で《春への憧れ》を思わせる楽しいロンドである。


♪モーツァルト:クラリネット五重奏曲 イ長調
           K.581(1789年9月29日完成)

 親しかったクラリネット奏者シュタードラーのために書かれたこの作品は、作曲者自身も愛着があったと見え《シュタードラー五重奏曲》 と手紙にもある。

 第1楽章 アレグロは弦楽四重奏によるイ長調のゆっくりとした第1主題の提示で始まり、それにクラリネットが合の手を入れる。チェロのピチカートで始まるホ長調の魅力的な第2主題がクラリネットに引き継がれてホ短調に陰るあたりは最高の聴きどころだろう。

 第2楽章 ラルゲットはニ長調で、クラリネットの伸びやかな歌で始まる。これに第1ヴァイオリンが高音域で答える美しさは格別である。

 第3楽章 メヌエットはイ長調で2つのトリオを持つ。第1トリオはイ短調で弦楽四重奏だけで演奏され、第2トリオはクラリネットが入ってイ長調になる。

 第4楽章 アレグロ・コン・ヴァリアツィオーネはイ長調の主題による4つの変奏曲。ヴィオラがむせび泣く第3変奏とクラリネットが陽光の中に躍る第4変奏の対比が聴きどころであろう。最後は名残りを惜しむような美しいアダージョがあり、再び冒頭の主題が現れて、この古今に絶する傑作を閉じる。

 なおモーツァルトはこの曲を書くにあたり2つの断片を残している(K.580a,K.580b)。これを後世の人が補筆したものがあり、CDにも入っている。

 

※出演者のプロフィール

◎名倉淑子(ヴァイオリン)  
東京カルテットの世界的活躍に始まる彼女の名声はとても書き切れない。1981年からのバンベルク交響楽団のゲストコンサートマスター、85年からヨーロッパで活躍する音楽家たちで結成されたニッポン・オクテットのメンバーとしての活躍などが特に目立っ。88年に10年余にわたるドイツでの演奏と指導を終えて帰国してからの彼女の存在はわが楽壇にとって益々重要なものとなっている。

◎大林典代(ヴァイオリン)
東京芸大器楽科卒業後、東京都交響楽団に入団したが、現在は退団し、ソロ、室内楽などを中心に活躍している。若手の有望なグァイオリニスト。

◎岡田伸夫(ヴィオラ)
東京交響楽団のコンサート・マスターに始まる彼の経歴は一言では述べられない。ヨーロッパ、アメリカでの活躍ぶりは目覚ましいものである。88年に帰国後は水戸室内管弓玄楽団、サイトウ・キネン・オーケストラのメンバーで活躍する一方、東京芸大、桐朋学園大、洗足学園大で後進を指導。

◎松波恵子(チェロ)
新日本フィルの首席奏者を長年務めた彼女は、フランスとの関係が深い。フランスでの勉学、数々のコンクールでの受賞歴はそれを物語っている。ソロ及び室内楽の最近の活躍は目覚ましい。

◎千葉直師(クラリネット)
日本クラリネット協会の常任理事を務める彼の経歴は多彩である。ウィーンでの修学が長く、モーツァルトのクラリネットの曲の演奏にかけては、日本で最高の奏者といえよう。1971年からの留学は3年にわたり、74年にウィーン国立アカデミーを最優秀で卒業。帰国後はN響を経て、84年以来都響の首席クラリネット奏者を務めている。