第71回例会の内容紹介
モーツァルトとハイドンのピアノ曲
平成14年6月16日 14:00 藤沢リラホール
プログラム
ピアノ独奏 青島 陽子
演奏曲目
♪モーツァルト:ピアノ・ソナタ変ホ長調 K.282
♪ハイドン:ピアノ・ソナタ ハ短調 Hob.XVl:20
♪ハイドン:ピアノ・ソナタ ハ長調 Hob.XVl:35
♪モーツァルト:ピアノ・ソナタ ハ長調 K.545
♪モーツァルト:幻想曲 ニ短調 K.397
♪モーツァルト:ピアノ・ソナタ ニ長調 K.576
曲目解説
井上 太郎
ヨーゼフ・ハイドン(1732−1809)とモーツァルトの生没年(1756−1791)を比較しますと、ハイドンはなんとモーツァルトの2倍以上生きているのです。
しかしハイドンはモーツァルトの死後、音楽史家のバーニーに「友人たちは私に才能があるとよく世辞を言うが、モーツァルトは私をはるかに超えていた」と述べたと言います。これは彼の人柄をうかがわせるとともに二人が互いに深く理解し、尊敬し合っていたことを物語っております。
●モーツァルト:ピアノ・ソナタ 変ホ長調 K.282
この作品は、1775年の初めにミュンヘンで一気に書かれた6曲(K.279−284)の中の4曲目に当たります。
ところがこれはモーツァルトのピアノ・ソナタの中でも例の無い、第1楽章がアダージョ、第2楽章が2つのメヌエット、第3楽章がアレグロという形なのです。
第1楽章の最初、左手の分散和音に乗って唱われる旋律に私は強く魅かれます。この楽章全体にモーツァルトは美しい旋律の花を撒き散らしております。
第2楽章の第1メヌエットは2度繰り返されます。つまり第2メヌエットはトリオに当たるものでしょう。
第3楽章は快活で短いフィナーレです。
●ハイドン:ピアノ・ソナタ ハ短調 Hob.XVl:20
ハイドンは生前「パパ」という愛称で呼ばれておりました。これは愛情と尊敬の意味がこめられていたわけですが、死後に彼の音楽がすべてこの愛杯にふさわしいと誤解されるようになったのは不幸でした。
ハイドンにも心をえぐるような短調の曲が幾つもあり、中でもこのソナタは「疾風怒濤」時代の傑作です。
作曲されたのは1771年、39歳の時でした。なおハイドンの作品にはHob.という記号と番号がついておりますが、これはモーツァルトのケッヘル番号と同じで、オランダの書誌学者ホーポーケンが作ったハイドンの作品目録の番号です。
第1楽章はハ短調で、不安を感じさせる開始です。一時は明るい変ホ長調に戻りますけれども、ハ短調の展開部に入ると再び暗い影がさします。
第2楽章は変イ長調ですが、シンコペーションの部分が多く、そこになお不安が宿っているようです。
第3楽章はハ短調の流れるようなアレグロで、奔放という言葉がピタリと合うフィナーレです。
●ハイドン:ピアノ・ソナタ ハ長調 Hob.XVl:35
1777年か79年頃に書かれたとされているこの作品は「ソナチネ・アルバム」に入っているので、ピアノの初心者にはおなじみの曲です。
第1楽章の出だしや、8小節目から始まる左手の3連音の連続はいかにも練習曲風ですが、展開部に入ってアダージョを挟む前後の半音階的な転調は劇的です。プロの手にかかると初心者の演奏とどれだけ違うかが聴きどころでしょう。
第2楽章はへ長調のアダージョ。どこかモーツァルトのK.545の第2楽章に共通する趣が感じられます。
第3楽章は単純に見えますが無駄のない構成です。
●モーツァルト:ピアノ・ソナタ ハ長調 K.545
この曲についてモーツァルトは、1788年6月28日の日付で自分の作品目録に「初心者のための小さなクラヴィーア・ソナタ」と記しております。ピアノを習い始めて最初に弾くまともな曲と言えばこれでしょう。
この曲が書かれた時期は有名な3大交替曲と同じ頃で、作品目録にはこれと一緒に第39番の交響曲変ホ長調(K.543)が記されております。
第1楽章の始まりは単純に見えますが、第1主題の旋律の上向下降のバランスは完璧です。18小節から21小節までの16分音符のきらめく美しさはどうでしょう。
29小節からト短調で始まる展開部の後、第1主題が、本来ならハ長調で現れるのにへ長調で現れます。
第2楽章はト長調のおだやかな旋律で始まり、33小節から48小節までは、ト短調、へ長調、ハ短調と目まぐるしく転調して、最後は減7度という特殊な和音でクライマックスを作ります。モーツァルトはもはや、「初心者用」であることを忘れてしまったようです。
第3楽章はハ長調に戻り、右手と左手が1拍づつずれて弾かれる楽しい主題で始まります。
●モーツァルト:幻想曲 ニ短調 K.397
この曲の自筆楽譜は残っておらず、正確な作曲年代は不明です。1804年に始めて出版された時には、97小節以降は未完という形でした。しかし1806年に現れた最初の全集では、10小節が捕われて出版されました。
今日演奏されるのはその楽譜によります。
まず闇の底から湧き出るような暗い和音で始まります。それに続いてニ短調のアダージョになり、切れ切れの楽句が続きますが、突然半音階の急速なパッセージが流れ、再びアダージョに戻ります。そして唐突なほど明るいニ長調に変わって終わります。
●モーツァルト:ピアノ・ソナタ ニ長調 K.576
1789年7月の日付で自作品目録に記載されているこの曲はモーツァルトが完成した最後のピアノ・ソナタです。当時、彼は職を求めてプロイセンに旅し、国王に謁見することが出来ましたが、条件が合わなかったようです。ただ国王からは6曲の弦楽四重奏曲と、王女のために6曲の「やさしいクラヴィーア・ソナタ」の注文は受けました。従来この曲がそのソナタの1曲だろうと言われていましたが、モーツァルトのソナタの中では技術的に最も難しいものなので、この作品は先の注文とは無関係とする説が最近は有力です。
第1楽章はアレグロで、8分の6拍子の狩りの音楽の形の第1主題で始まります。展開部はイ短調で開始しますが、突如変ロ長調に転調するなど意表を突く転調や、対位法の鋭い切り込みが随所に現れます。
第2楽章はイ長調のアダージョで、中間部は嬰へ短調で深い憂愁が盛られております。
第3楽章は再びニ長調に戻り、軽快なアレグレットになりますが、対位法の複雑な処理を伴う思いもかけない転調が出てきたりして、演奏者には高度な技術が要求されます。
※出演者のプロフィール
★青島陽子(ピアノ)
茅ヶ崎市出身。6歳よりピアノを始める。フェリス女学院大学音楽学部卒業後、1994年渡独、州立ハイデルベルク・マンハイム音楽大学でピアノ演奏家コースを専攻すると同時に室内楽も修める。
またバーデン・バーデン交響楽団と共演。1998年、イタリアのジーノ・ガンドルフイ国際ピアノ・コンクールで第2位受賞。1999年国家演奏家試験に合格、更にDAAD特別賞を受賞。2000年6月、帰国リサイタルを横浜みなとみらい小ホールで開催、今春はプラハ室内管弦楽団と共演好評を博す。
塚原瑛子、坪田昭三、渡邊康雄、ロベルト・ベンツの各氏に師事。現在、フェリス音楽教室講師。



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