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第72回例会の内容紹介


 モーツァルトの知られざるピアノ曲 

  平成14年9月8日 14:00 藤沢リラホール 

プログラム

  ピアノ独奏  小林 道夫

演奏曲目

オールモーツァルト
♪プレリュードとフーガ  ハ長調 K.394
♪ピアノ・ソナタ  ヘ長調 K.533/K.494
♪アダージョ ロ短調       K.540
♪自動オルガンのためのアンタンテ K.616
♪ソナタ楽章 変□長調      K.400
♪ソナタ楽章 卜短調       K.312

曲目解説

                                  井上 太郎

 モーツァルトの生きていたのは、ピアノが現れ始めた時代である。しかしショパンやリストが使った楽器、さらには現代のピアノとはかなり性能が違っており、作品の作り方にも相違が見られる。
 今回のプログラムの曲はいずれもあまり演奏されない曲であるが、モーツァルトの音楽の真髄を知るためには、これらの曲を無視することは出来ない。


♪プレリュードとフーガ ハ長調 K.394

 モーツァルトの庇護者として重要な存在の一人だったヴァン・スヴィーテン男爵は、帝室王室図書館長であると同時に、シンフォニーを何曲も書いているほどの音楽通で、自邸に古い楽譜の見事なコレクションを持っていた。その中心は、ベルリン大使時代に集めたバッハ父子の作品と、ロンドンで集めたヘンデルの作品であった。

 彼は毎日曜日、自邸でこれらによる演奏会を開き、モーツァルトはその常連だったのである。
 当時のコンサートの曲目は今と違って、作られたばかりの音楽が中心で、モーツァルトの祖父の世代に当るバッハやヘンデルの曲が演奏されることは、ほとんど無かった。モーツァルトの晩年の曲に一段と深まりが出てきたのは、このサロンで多くのバロック音楽を知ったからだと言えよう。

 モーツァルトはこれらの曲を参考に、器楽のフーガなどの習作を幾つも試みているが、完成されたものは少ない。このハ長調の曲はその一つで、姉に送った楽譜につけられた手紙によると、フーガを作りながらプレリュードを考えていたという。完成されたのは1782年4月である。


♪ピアノ・ソナタ ヘ長調 K.533/K.494

1788年1月3日の日付を持づこの曲は、ポピュラーではないが、モーツァルトの作品の中では異色のものとして注目に値する。

 ケッヒェル番号が二つに分かれているのは、第1、2楽章を出版する時に、第3楽章に既成の曲を入れてまとめたからである。

 第1楽章のアレグロはへ長調。単純な形で始まるかのようだが、随所に大胆な転調が見られ、対位法の使い方にも凝ったところが少なくない。
 第2楽章のアンダンテは変口長調。この部分はモーツァルトのピアノ・ソナタの中で最も複雑な和声構造を追求している。ことに中間部での不協和音の連続は当時の人たちを驚かせたに違いない。
 モーツァルトの曲は難しいという当時の世評は、これなどから出ているのだろう。
 第3楽章のロンドはへ長調のアレグレット。前の楽章の緊張感を解きほぐすような、爽やかな曲である。


♪アダージョ ロ短調 K.540

 モーツァルトのピアノ曲でロ短調で書かれたものはこれしかなく、完成の日什は1788年3月19日である。
 この曲がどのような経緯で作られたか、全くわからないが、彼の深い音楽性がうかがわれる傑作である。
 モーツァルトのピアノ曲には表現の指定が槻して少ないが、この曲には実に細かい指定がある。モーツァルトのピアノ曲でこれほど綿密に指定のある曲はない。
 彼がこの小品に並々ならぬ気持ちをこめた現れだと言ってよいだろう。


♪自動オルガンのためのアンダンテ ヘ長調 K.616

 作曲の日付は1791年5月4日となっているこの曲はバレルオルガンという機械仕掛けのオルガンのために作られたのだが、出版された時には「クラヴィーアのためのロンド」となっていた。
 精緻な作りの小品で、半音階を駆使した和声はロマン派音楽の到来を思わせるところがある。


♪ソナタ楽章 変口長調 K.400

 これは未完のソナタ楽章の断片だが、展開部に、後にモーツァルトの妻となるコンスタンツェとその妹のゾフイーの名が書かれており、2人の会話と考えられ、時期は1781年頃と考えられる。モーツァルトは91小節で筆を折っているが、弟子のシュタードラーが、それまでの筆法を参考にして、148小節にまとめた。


♪ソナタ楽章 卜短調 K.312

 これの成立年代は、以前は1770年代と考えられていたが、残された自筆譜の最新の研究の結果、1790年か91年、つまり最晩年のものではないかとされるようになった。これも未完で残されたものを、誰かが178小節にまとめている。

  

※出演者のプロフィール

★小林道夫(ピアノ)

1933年、東京生。1955年、東京芸術大学音楽学部の楽理科卒。大学卒業後より、伴奏者として幅広い活動を行ない、その地道な活動が高く評価されて、1956年に毎日音楽賞特別賞を受賞。

 1965年、デトモルト北西音楽大学に留学、チェンバロ奏者として多くのアンサンプルと共演。帰国後はピアニスト、チェンバロ奏者としての活動ばかりでなく、指揮、合唱など多方面にわたり活躍を続け、1970年、鳥井賞を1972年、ザルツブルク国際財団モーツァルテウムの記念メダルを、1979年にはモービル音楽賞を受けている。

 また武庫川女子大学、東京芸術大学を経て、1983年より国立音楽大学教授に就任して多くの人材を育てた。現在は大飯芸術大学大学院教授。