第73回例会の内容紹介
オーケストラ・アンサンブル金沢の
メンバーによる弦楽四重奏曲
平成14年10月27日 14:00 藤沢リラホール
プログラム
演奏曲目
♪弦楽四重奏曲 ト長調 K.387
♪弦楽四重奏曲 ニ短調 K.421
♪弦楽四重奏曲 変ホ長調 K.428
曲目解説
井上 太郎
弦楽四重奏曲を20曲余り残しているモーツァルトがハイドンに捧げた6曲のセットは、最も有名なもので代表作と言える。今回はその前半の3曲を取り上げるが、後半の3曲は同じメンバーで来年演奏される。
モーツァルトがウィーンに居を定めた1781年の翌年4月、ハイドンの新しい弦楽四重奏曲の6曲セットが作品33として、モーツァルトとも関係の深いウィーンのアルターリアから出版された。
モーツァルトが10年ぶりに弦楽四重奏曲の作曲を始めたのは、これに刺激されたからであろう。第1曲は1782年の大晦日に書き上げられるが、全6曲の完成には2年もの歳月をかけている。自主的に書いた作品なので、注文作品の合間に書き継がれたわけなのだが、非常な労作であったことは間違いない。そして1785年9月1日、ハイドンへの献辞を添えてアルターリアから作品10として出版された。
献辞には6つの作品を自分の息子に譬えて「彼らはまことに長く辛い労苦の結実」としている。モーツァルトがこのように言っている作品はほかには無い。
出版に先立ちモーツァルトは1月15日と2月12日にハイドンを自宅に招いて聴いてもらった。2月12日にはたまたま父レーオポルトがウィーンに来ていて一緒に聴いた。そのあとハイドンはこう言ったという。
「私は誠実な人間として神にかけて申し上げますが、御子息は、私が知っている、あるいは名前だけ知っている作曲家の中で、最も偉大な方です。御子息は様式感を持ち、その上に全く優れた作曲の技術を持っておられます」これはレーオポルトが娘に宛てた手続に書かれているのである。
自筆楽譜には、おびただしい改訂の跡が残っている。これはモーツァルトがこの6曲にかけた執念が、非常なものであったことの何よりの証拠であろう。
♪弦楽四重奏曲 卜長調 K.387
6曲の冒頭を飾るこの曲には、今までになく詳細に表情記号がつけられている。これは演奏者の恣意が入るのを出来るだけ抑えようとしたからであろうが、音楽の流動性は少しも損なわれておらず、有機的な音楽の構造がかもしだす、快い緊張が感じられる。
第1楽章の第1主題は大きな広がりを感じさせる。第2主題は第2ヴァイオリンにまず現れる。展開部は短調になっているところが多く、チェロの半音階上昇に支えられた二つのヴァイオリンが緊張感を生み出す。
第2楽章のメヌエットでは、半音階の上昇と下降に通常の3拍子のアクセントとは違う2拍子のアクセントをつけている。トリオはト短調である。
第3楽章はハ長調で、凛然たる気品を持った美しさに溢れており、この曲の最高の聴きどころであろう。
第4楽章はフガートで始まる。ソナタ形式とフーガとの融合は「辛苦の結晶」だったに違いない。
♪弦楽四重奏曲 ニ短調 K.421
これは1曲目より半年もたった1783年6月頃に完成されたと考えられている。6曲セットの中での唯一の短調の曲だが、このようなセットには短調の曲を1曲ぐらい入れて変化をつけるのが普通であった。
第1楽章の飛躍の大きい第1主題は、《ハフナー・シンフォニー)の第1主題の陰画のようである。第2主題はへ長調だが、続いて6連音の特徴あるモティーフが現れる。展開部は変ホ長調で始まり、6連音のモティーフが活躍して再現部に導く。
第2楽章のアンダンテはへ長調だが第1楽章の暗さを引きずっているかのように、時々激したような悲痛な響きが現れる。
第3楽章はニ短調のメヌエット。冒頭から対位法を駆使した緊張感がみなぎっている。それに対しニ長調で書かれたトリオは明るく楽しい。
第4楽章はニ短調のシチリア舞曲風の主題による変奏曲。類似した主題をモーツァルトは他でも使っているが、変秦の美しさ、特に終結部は絶妙である。
♪弦楽四重奏曲 変ホ長調 K.428
1783年6月か7月に完成されたと考えられるこの曲は、出版された時には3番目ではなく、4番目だった。
しかし作曲年代から考えると3番目に当たるので、今はハイドン・セットの第3曲とするのが普通である。
モーツァルトはこの曲の第1、2楽章で、当時の常識を超えた和声の可能性を追究している。
第1楽章の冒頭、ユニゾンで始まる第1主題からして調性感がぼかされており、展開部では滅7の和音と呼ばれる特殊な和音が多く使われている。
第2楽章は8分の6拍子のアンダンテ・コンモート。ここの和声の動きには約1世紀後のワーグナーの歌劇《トリスタンとイゾルデ》を思わせる所さえある。
第3楽章のメヌエットはそれまでとは全く異なった趣きの明解な曲だが、トリオの短調の旋律が魅力的。
第4楽章も引き続き活発な曲。ハイドンを思わせるユーモラスな曲想で終始している。
※出演者のプロフィール
♪坂本 久仁雄(第1ヴァイオリン)
青森県出身。武蔵野音楽大学卒業。米、ウィスコンシン大学、ノースウェスタン大学大学院、及び同大学ディプロマコースにて学ぶ。
♪上島 淳子(第2ヴァイオリン)
東京都出身。桐朋学園大学音楽学部卒業。同大学研究科修了。その後、桐朋オーケストラ・アカデミーにて研鑽を積む。1998年よりオーケストラ・アンサンプル金沢の第1ヴァイオリン奏者
♪石黒 靖典(ヴィオラ)
石川県出身。昭和音楽大学卒業。兎束俊之氏に師事する。また、室内楽等の研鑽も積む。
♪大沢 明(チェロ)
富山県出身。京都市立芸術大学卒業。黒沼俊夫、上村昇氏に師事する。フィレンツェでプランコ・ロッシ氏、カナダ、ニューヨークでハーヴィー・シャピロ氏に学ぶ。
♪上記の方々はいずれもオーケストラ・アンサンプル金沢のメンバーです。


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