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第74回例会の内容紹介

 
井上会長による音楽をまじえた講演

  モーツアルトのシンフォニー(2)
 

  平成15年2月16日 14:00 藤沢産業センター 
  

当日のプログラムより

                                井上 太郎


 イタリア旅行がもたらしたもの

年初の例会でおこなう連続講演は、前回から「モーツァルトのシンフォニー」です。今日はその第2-2回目として彼がイタリア旅行中に作曲した作品と帰国直後に書いた作品を中心に取り上げます。

 モーツァルトの3回にわたるイタリア旅行は1769年から1773年にわたります。年齢は13歳から17歳です。当時ヨーロッパの音楽の主流であったイタリアに息子を連れてゆく時期をこの年齢まで待ったのは、父親の深慮でありましょう。それが成人してからの音楽に計り知れない影響を残すことになります。
モーツァルト音楽の持つ明るさと流動牲は、イタリア音楽の語法を完全に身につけているところから現れます。それとドイツ語圏の音楽の持つ深みとが調和したところにモーツァルトの独自の世界が築かれているのです。

 この時期のシンフォニーの特色

 イタリア旅行に出かけた時期の器楽作品の中で数の多いのはシンフォニーで、十数曲あります。モーツァルトが生涯で一番シンフォニーを沢山書いたのはこの時期でした。しかしイタリア旅行中に書いた作品よりも、次の旅行に備えてザルツブルクで書いた作品の方が多いのです。

 この頃のシンフォニーは1778年に書かれる 《パリ・シンフォニー》(K.297)以降の作品とは性質が違い、コンサートの額縁をつとめるものでした。従って演奏時間は10分前後で3楽章のものが多く、4楽章の曲は後で第3楽章を追加したものが少なくありません。また序曲型式のものは、楽章の切れ目が半終止になっていて、続けて演奏されます。

 楽器打成と演奏の形楽器の箱成は通常、弦楽器はヴァイオリンが二部、ヴィオラ、チェロ、コントラバスで、チェロとコントラバスは、多くはオクターヴの平行で一緒に動くものでした。管楽器はフルート、オーボエ、ファゴット、ホルン、トランペットが使われていますが、曲によって違いがあります。クラリネットが使われるのは《パリ・シンフォニー)以降です。打楽器はティンパニだけで、それもトランペットが加わる曲だけに使用されました。そして指揮者はチェンバロを弾きながら指揮をしたのです。

 当時のオーケストラの人数は演奏される場所によって大きく違いました。アッカデーミアといわれた貴族の舘での演奏では十数名ぐらいであったと考えられますが、大劇場のオーケストラは60名くらいもいたようです。モーツァルトのオペラ・セーリアの最初の作品の《ボントの王ミトリダーレ》がミラノのドゥカーレ劇場で初演された時のオーケストラはチェンバロ2、第1ヴァイオリン14、第2ヴァイオリン14、ヴィオラ6、チェロ2、コントラバス6、オーボエ2、フルート2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2それにテインパニと報告されています。

チェロとコントラバスの数の違いが大きいのはイタリアのオーケストラの特色であったようです。
 モーツァルトの研究で著名なアルフレート・アインシュタイン(1880−1952)は古典的な名著として知られる『モーツァルト』の中で次のように言っております。

 「イタリア風なシンフォニー作曲法の精神とはなにか? それはオペラ・プッファの精神である。荘重、高貴で、熱情に溢れ、綾徐楽章では悲劇的な偉大さを感じさせ、品位ある対位法的曲相をそなえ、<オブリガート独奏>を持つ古い古典的なシンフォニアあるいは序曲から、オペラ・プッファへの変化はまことに徹底的である。音楽史はときとして極端から極端へ進むものである」(浅井真男訳)

 モーツァルトがイタリアヘ行った時期はこの「徹底的な変化」が現れ始めた頃で、オペラ・ブッファの様式がシンフォニーの中核になっていると言えます。

 使われている調性

 二長調が最も多く、次にト長調、ハ長調、へ長調、イ長調といったところです。ニ長調という調は弦楽器に適していて鳴らしやすいからです。そのために弦が主体となるシンフォニー、ディヴェルティメント、セレナードに最も多く使っています。その爽快な響きはイタリア風シンフォニーにビッタリです。ニ長調という調は、モーツァルトにとってオペラ・プッファと深く結びついているようで、《フイガロの結婚》(K.492)の序曲、《ドン・ジョヴァンニ》(K.527)の序曲の後半はいずれもニ長調で書かれております。