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第76回例会の内容紹介

 
モーツァルトと中田喜直と

  フーゴー・ヴォルフの歌曲
 

  平成15年5月18日 14:00 藤沢リラホール 
  
♪野口玲子(ソプラノ)
♪平島誠也(ピアノ)

♪モーツァルト (1756−1791)
 @春へのあこがれ(K.596)
 A子供の遊び(K.598)
 B顔では静かにほほえみつつも(K.152)
 C満 足(K.473)
 D魔法使い(K.472)
 Eすみれ(K.476)
 F秘めごと(K.518)
 G老 婆(K.517)
 Hルイーゼが不実な恋人の手紙を焼くとき(K.520)
 Iラウラに寄す夕ベの歌(K.523)
 Jクローエに(K.524)


♪中田喜直 (1923−2000)
 
 六つの子供の歌
 @うばぐるま(西条八十)
 A鳥(小川未明)
 B風の子供(竹久夢二)
 Cたあんき ぽーんき(山村暮鳥)
 Dねむの木(野口雨情)
 Eおやすみ(三木露風)


♪フーゴー・ヴォルフ (1860−1903)
 
@わたしの髪のかげで(スペインの歌の本から)
 Aわたしのいいひとが月あかりの家の前で
  うたっている(イタリアの歌の本から)
 Bすてきだわ、みどり色って(イタリアの歌の本から)
 Cいとしいひと、わたしがあなたの家の前
  を通るとき(イタリアの歌の本から)
 Dアナクレオンの墓(ゲーテの詩による歌曲集から)
 E祈り(メーリケの詩による歌曲集から)
 Fもう春だ(メーリケの詩による歌曲集から)



当日のプログラムより

                                井上 太郎

曲 目 解 説

♪モーツァルトの歌曲

 リートと呼はれるドイツ語の歌曲の歴史で、最初の傑作を書いたのはモーツァルトである。彼は30曲余りの作品を残しており、その主要な作品は1785年から91年の間のある時期に集中的に書かれた。
 今日唱われる11曲の内10曲はドイツ語の歌詞だが、Bだけはイタリア語の歌詞で、1772年から75年にオーケストラ伴奏で書かれたものを後にピアノ伴奏にしたと考えられ、新全集ではリートではなくカンツォネッタとして収録されている。

 @は最も有名な曲。私が日本語に訳した歌詞でパーティーなどで唱った方も多いだろう。オーヴァーベックの歌詞によるこの曲の旋律は直前に書かれたピアノ協奏曲第27番K.595の第3楽章の主題と同じである。
 Aは@と同じオーヴァーベックの詩による。@と同じ1791年の作。音楽は極めて単純な形で書かれている。
 Bは前述のようにイタリア語の歌詞による。愛する人の心の内を唱った詩にふさわしい美しい旋律の曲。
 Cはヴァイセの詩による作品。1785年に書かれた。ピアノが描いた旋律を歌がなぞる形で始まる。人生に過剰な欲を持たずに過ごすのが自分の気持ちだとする。
 DはCと同じ詩人の詩による。作曲の日付けも同じ。魔法使いとは、恋の手管に長けた男のこと。純真な娘がだまされたことを告白する内容を、ト短調の切り詰めた音楽の中に表現している。歌詞は4番まで。
 Eも1785年の作品。モーツァルトのリートの中でも有名な傑作。ゲーテのこの詩は多くの作曲家の注目するところとなったが、詩の内容をこれほど見事にとらえている作品はない。最後の2行はモーツァルトが付けたもので、このリートを締め括るのにふさわしい。
 Fは1787年の作。ヴァイセの詩は若い二人の秘め事をほのめかす。音楽は切り詰めた形で無駄がない。
 GもFと同じ時期の作品。老婆が昔のことを愚痴る内容の詩はハーゲルドンによる。音楽はホ短調。
 Hも1787年の作。バウムベルクの詩によってハ短調で書かれたこの作品は2分弱の小品だが、モーツァルトの劇的表現の粋が凝縮された素晴らしい傑作。
 IはHの2日後の日付を持つ。カンベの詩は人生の最後に訪れる夕暮れの思いを唱っている。おだやかな分散和音による伴奏に乗って唱われる歌は、絶妙な転調により美しい陰影を作り出し、聴く者の心に迫る。
 JはIと同じ日付を持つ。ヤコービの詩は恋人の情熱的な告白だが、付けられた音楽は終始明るく楽しい。

♪中田喜直の歌曲

 中田は歌曲、合唱曲に優れた作品を数多く残しており、「めだかの学校」のような童謡も書いているが、「六つの子供の歌」は童謡ではなく、子供の世界をおとなが唱った歌曲である。この作品は終戦直後の1947年に書かれ、彼のデビュー作となった。

♪フーゴー・ヴォルフの歌曲

 19世紀に入ってドイツ・リートにロマンの花を開かせたのは言うまでもなくシューベルトでありシューマンだが、それを受け継いだ作曲家の中での第一人者がヴォルフなのである。彼は500曲近い歌曲を残した。
 1860年スロヴェニアのドイツ語圏で生まれた彼は少年時代から音楽の才能を見せたが、妥協を許さない性格から常に問題を起こしている。彼が最も尊敬していたのはワーグナー(1813−1883)であった。 しかしプラームス(1833−1897)には、最初の訪問の時に受けた忠告を侮辱ととらえ、強い反感を持った。

 ヴォルフの才能が開花するのは1888年である。友人から提供されたウィーン近郊のベルヒトルツドルフの家に住むようになってからで、時に一日に2〜3曲書いたこともあった。これらが出版され、彼の名声は一挙にひろがったが、若い時に感染した梅毒により精神に異状をきたすようになり、1903年に40歳で没した。
 彼の歌曲の主要な作品は歌曲集として生前に出版されている。今日唱われる7曲の内、イタリアとスペインの歌の本から取ったものは、ドイツ語に翻訳された詩に作曲したものである。

 @はスペインの歌の本の中で最も有名な作品。女との楽しい一時の後、膝の上で眠ってしまった男を起こすか起こすまいか迷う女の思いを巧みに描いている。
 Aはイタリアの歌の本から。恋人が外でセレナードを唱っているのに出て行けない娘の嘆きである。
 Hは緑に寄せて恋人と自然の美しさを讃えている。イタリアの歌の本による、イ長調の爽やかな傑作。
 Cもイタリアの歌の本から。ピアノの伴奏が面白い。いとしい人が住む家の中が透かして見えたらという。
 Dゲーわしこの歌曲は、ヴォルフの作品の中でも取り分け感銘が深い。
 Eメーリケの詩につけられた音楽はホ長調を中心とするコラール風で、詩の深い精神性が表現されている。
 Fメーリケの詩によるこれは春の美しさ楽しさを唱っている。ピアノの伴奏がハープの音を模したりする。



出演者のプロフィール

野口玲子(ソプラノ)

 武蔵野音楽大学専攻科にて、松内和子、川村英司氏等に師事した後、ウィーン国立大学声楽科に留学。ユリック・ヴェルバやフェルディナント・グロスマン教授等に師事。1971年、グラーツで開催された第1回国際フーゴ・ヴォルフコンクールで第3位受賞。

 1972年帰国以来、毎年リーダーアーベントを開催。ドイツ・リートを中心に多数の演奏会に出演する他、資料・文献の研究・翻訳にも従事。現在武蔵野音楽大学講師、日本フーゴー・ヴォルフ協会理事。


♪平島誠也(ピアノ)

 ピアノを中野章三郎、歌曲伴奏をコンラート・リヒター、アーウイン・ケージ氏等に師事。武蔵野音楽大学、国立シュトゥットガルト芸術大学、チューリッヒ音楽院で学んだ後、ルツェルン歌劇場専属コレペティトールとなる。帰国後もリサイタルの伴奏者として全国各地で活躍中。現在、国立音楽大学、昭和音楽大学講師。日本フーゴー・ヴォルフ協会同人。