| 第81回例会の内容紹介 |
モーツァルトの歌劇〈魔笛〉を探る
平成16年3月14日 14:00 藤沢産業センター |
| 曲 目 解 説 |
モーツァルトの死の直前に完成されたこの歌劇を、彼はオペラ・セーリアともオペラ・ブッファとも呼ばず「ドイツ歌劇」としていた。つまりこれには叙唱はなくセリフが使われているが、内容的にはオぺラ・プッファのような軽いものではないことを示しているのである。 モーツァルトの研究に大きな足跡を残したアルフレッド・アインシュタインは《魔笛》について「子供を夢中にさせると同時に、最も人生経験をつんだ大人をも涙が出るほど感動させ、最も賢明な人間をも高揚させることの出来る作品に属している」と言っている。 これの台本は、初演の際に白らパパゲーノを演じた座頭のシカネーダーとモーツァルトの合作と考えられる。だが筋に大きな矛盾があると以前から言われてきた。 それは娘を奪われた夜の女王の母親としての悲しみと後半の逆転が、腑に落ちなくなるように思えてしまうからだ。しかしこの矛盾を解く重要でかなり長い対話が母と娘の間で交わされる部分をカットする演出が多いからであろう(今回のものもそうである)。 夜の女王の亡夫はザラストロと「同じ志を持つ盟友」で、「七重の太陽の円盤」の胸飾りの所有者だったのである。女王は娘のパミーナに「お前のお父様が亡くなってから、私の威力が失われたのは、お父様が七重の太陽の円盤をザラストロに進んで与えてしまったからなのです」と言う。そして「私がそれについてお父様に問いつめると、“妻よ私の最期は近い、私の持つ宝はお前と娘だけになった”と言われたので、太陽の円盤のことを尋ねると、“ザラストロが、男らしくそれを管理するだろう。これ以上言うことはない。女には理解し難いことに口をはさむな。お前の務めは、お前と娘を思慮深い男たちの導きにゆだねることだ”と言われたのです」と言う。 それを聞いてパミーナが「あの若者(タミーノ)を私が今愛しているように、志を同じくする方としても同じように愛してはいけないのですか。ザラストロ様は徳の高い方です」とたたえると、女王は目をむいて「何を言います。私の娘であるお前が、私の没落をひたすら図っているあの男を愛するんですって?この短剣が見えないの?これはザラストロのために研がれたのです。お前はあの男を殺して、あの威力ある太陽の円盤を私に渡すのです」と言う。では「七重の太陽」とは何か(今回の舞台では、それは箱に入った玉になっている)。 これは古代ぺルシアのゾロアスター教から来ていると考えられる。その主神アフラ・マズダーを中心とする7つの「聖なる不死の神々」によって構成された「聖なる火(=太陽)」を示すものと考えられる。ザラストロの名がゾロアスターから来ていることは言うまでもない。 《魔笛》にこのような神秘思想が背後にあるのは、この歌劇がフリーメイスンと深く関わっているからである。フリーメイスンを無気味な秘密結社とする見方が今なおあるが、これは大きな誤解である。その起源は中世のイギリスの石工(mason)のギルドにあるとされる。大聖堂や城の建設に従事する彼らは土地のギルドには加人せず年責も免除された自由な職人集団、すなわちfreemasonだったのである。彼らは高い技術を持っていたが、それは正に秘伝であった。全員が男性であり、秘伝を外に漏らしてはならない綻があった。 その集団の集まるところはロッジと呼ばれ、「徒弟」「職人」「親方」の3つの階級があり、昇級には独特のテストがあったのである。 14世紀中葉になってフリーメイスンたちは石工以外の人たちも入れる「友愛団」という組織を作った。つまり宗教とは違う伝統的な精神修業に重きを置いたのである。もともとが男性の集団から始まっているので女性は入れず、また秘伝を外に漏らしてはいけない掟があったので秘密結社と見られるようになったのはやむをえまい。 モーツァルトの時代はフリーメイスンの黄金時代で、折からヨーロッパに台頭した啓蒙思想がフリーメイスンの普及に拍車を掛け、王侯、貴族、学者、文人などがフリーメイスンに加入した。 つまりステータス・シンポルと見られ、ロッジは重要な社交の場となったのである。 モーツァルトが入会したのは1784年12月のことだが、人会する前からメイスンに関係のある曲を書いており、《魔笛》こそ、その総決算だったのである。 ザラストロは夜の女王の亡夫から、娘が良い相手を見つけるまで預かってほしいと言われたに違いないのだが、悪妻だった夜の女王はザラストロを殺そうとする。しかし最後は「七重の太陽」を持つザラストロが勝利する。 ところがパパゲーノは、フリーメイスンの真面目なところを茶化す存在なのである。そのメルへン的な面白さがなかったら《魔笛》の人気は続かなかったであろう。 |