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第105回例会の内容紹介


水谷 上総とN響のメンバーによる
            モーツァルトのファゴット名曲集

平成20年3月23日(日)午後2時より   藤沢リラホール 

プログラム

出演:

水谷 上総 (ファゴット)
齋藤 真知亜 (第1ヴァイオリン)
森田 昌弘 (第2ヴァイオリン)
佐々木 亮 (ヴィオラ)
藤村 俊介 (チェロ)

曲目:

♪ファゴットとチェロのためのソナタ 変ロ長調 KV.290
 
歌劇「魔笛」KV.620より  (伴奏:弦楽四重奏)
♪タミーノのアリア「この肖像の魅するような美しさは」(第1幕)
♪パミーナのアリア「ああ 私には判る すべては消え」(第2幕)

♪ファゴット四重奏変ロ長調 KV.370

歌劇「フィガロの結婚」KV.492より   (伴奏:弦楽四重奏)
♪伯爵夫人のアリア「愛の神よ、安らぎを与えたまえ」(第2幕)

♪ファゴット協奏曲 変ロ長調 KV.191    (伴奏:弦楽四重奏)


当日のプログラムより

                                     井上 太郎 

曲 目 解 説

♪ファゴットとチェロのためのソナタ 変ロ長調  K.290

合奏において低音を受け持つファゴットとチェロだけのソナタは非常に珍しい。注文したのはミュンヘンに住むタデーウス・フォン・デュルニッツという男爵で、彼は熱烈なファゴット奏者だった。
 モーツァルトはオペラ≪偽りの女庭師≫の上演のためにミュンヘンに滞在していたときにこの注文を受け、1775年の初めに書いたと考えられる。この曲は注文の経緯からもわかるように、ファゴットが主役であり、チェロは伴奏の形をとっている。
 ファゴットの最低音が変ロ音なので、変ロ長調が吹きやすい。それでこの曲も、今日の後半に演奏されるファゴット協奏曲もともに変ロ長調で書かれている。
 第1楽章のアレグロは簡単なソナタ形式で書かれている。第2楽章はへ長調ののんびりとしたアンダンテ。第3楽章のロンド形式のアレグロがこの曲の聴きどころで、ファゴットのユーモラスな味わいが存分に生かされている。

♪タミーノのアリア「この肖像の魅するような美しさは」

 今日のプログラムにはオペラのアリアが3つ入っているが、歌手が唱うのではなく、ファゴットが唱うのである。つまり旋律の美しさを味わう演奏というわけだ。
 このアリアは歌劇≪魔笛≫(K.620)の第1幕で王子タミーノ(テノール)が、夜の女王の娘パミーナの肖像を見て唱うアリアで、冒頭の6度の飛躍から音階の下降が2回繰り返されるところが、この旋律の魅力である。

♪パミーナのアリア「ああ 私には判る すべては消え」

 これは≪魔笛≫の第2幕で、2人の僧から課せられた無言の行を守るタミーノが返事をしないのに絶望してパミーナが唱うソプラノのアリア。曲は変ロ長調と同じフラット2つの並行短調のト短調のアンダンテ。音域的には高いが、ファゴットの高音域の独特の悲劇的な音色が生かされている。

♪ファゴット四重奏曲 ヘ長調 K.370

 モーツァルトはオペラ≪イドメネオ≫の上演のために、1780年の暮れからミュンヘンに滞在していたが、ここの宮廷オーケストラにフリードリッヒ・ラムというオーボエの名手がいた。モーツァルトはラムと親しかったので、≪オーボエ四重奏曲≫を彼のために書いた。
 今日はこの原曲のオーボエのパートを1オクターブ下げてファゴットで演奏する。オーボエがファゴットに変わっても、曲のすばらしさは変わらない。むしろ聴きなれた原曲とは一味違う面白さが味わえるかもしれない。
 第1楽章アレグロは、すっきりとした第1主題で始まる。第2主題はとくに別のものではなく、第1主題をハ長調にしたものである。これはハイドンがよく使ったやりかたで、それをとりいれたと考えられる。展開部ではカノン風の処理が目立つ。再現部も提示部の繰り返しではなく、「うまいな」と思わせるような主題の扱いが出てくる。
 第2楽章はニ短調のアダージョで、哀愁を帯びている。ここでは原曲のオーボエとは違うファゴットの音色が味わえよう。
 第3楽章のアレグロのロンドは木管楽器の音色の変化をモーツァルトが実に巧みに生かしているかがわかる。この楽章は8分の6拍子なのだが、95 小節目から木管楽器だけが2分の2拍子に変わるのだ。このようなポリ・リズムは20世紀になるとストラヴィンスキーやバルトークが使っているが、モーツァルトは独自に考えだしたのだろう。
 
♪伯爵夫人のアリア「愛の神よ、安らぎを与えたまえ」

 歌劇≪フィガロの結婚≫(K.492)の第2幕の冒頭で、浮気に夢中な夫に見捨てられ、ひとり寂しく嘆く伯爵夫人ロジーナ(ソプラノ)が唱うカヴァティーナで、変ホ長調4分の2拍子の実に気品のある名旋律である。

♪ファゴット協奏曲 変ロ長調 K.191

モーツァルトは先に紹介したミュンヘンのファゴット好きの男爵のために3曲の協奏曲を書いたと考えられるが、現存せず、存在の確かなのは 1774年18歳の時にザルツブルクの宮廷楽団のファゴット奏者のために書かれたものと思われるこの曲だけで、モーツァルトが書いた、現存する最初の管楽器の協奏曲である。
 第1楽章アレグロは活気のある主題で始まり、ファゴットが得意とする大きな飛躍が、いたるところに現れる。
 第2楽章アンダンテ・マ・アダージョはヘ長調の短いものだが、深い味わいがある。この旋律と先の伯爵夫人のカヴァティーナの旋律とが似ていることは、モーツァルトの音楽にこめる感情の表れに共通するところがあるのだろう。
 第3楽章のロンドはメヌエットのテンポの指定があり、ファゴットの技巧をフルに生かしきっている。
 なおこの曲の3つの楽章のそれぞれにカデンツァがある。

◎演奏者のプロフィール

水谷 上総 (ファゴット)
 京都市出身。16歳よりファゴットを始め、仙崎和男氏に師事。1987年京都市立芸術大学卒業、光永武夫氏に師事。同年、ドイツ学術交流会(DAAD)給費留学生としてデトモルト音楽大学に留学。90年同大学を最優秀で卒業、ヘルマン・ユンク氏に師事。ライン・ドイツ歌劇場管弦楽団、群馬交響楽団を経て、2000年NHK交響楽団首席ファゴット奏者に就任。池辺晋一郎氏のファゴット協奏曲「炎の資格」、「ファゴット//バロック・ソナタ集」などのCDをリリースいている。東京芸術大学、東京音楽大学において後進の指導にも当たっている。

齋藤 真知亜 (第1ヴァイオリン)
1985年東京芸術大学首席卒業。同年芸大オーケストラ定期演奏会のソリストに選ばれる。西崎信二、奥田富士子、兎塚龍夫、海野義雄、二村英之、山口裕之の各氏に師事。86年NHK交響楽団に入団。現在同楽団第一ヴァイオリン・フォアシュピーラー、東京音楽大学非常勤講師を務める傍ら、リサイタルや自ら結成した「Matthias Musicum Quartett」による室内楽などの演奏活動、CDの録音を積極的に行なっている。最近では指揮者として、また自らの馬頭琴・口琴を織り込んだコンサートを行うなどその幅広い活動が注目されている。

森田 昌弘 (第2ヴァイオリン)
北海道出身。4歳よりヴァイオリンを始める。桐朋学園大学在学中より、ストリングアンサンブル「ヴェガ」のメンバーとなる。在京オーケストラのゲスト・アシスタントコンサートマスターなどを務め、同大学卒業後、NHK交響楽団に入団。オホーツク音楽祭in紋別、軽井沢国際音楽祭などに参加。これまでに山下浩司、辰巳明子の各氏に師事。

佐々木 亮 (ヴィオラ)
東京芸術大学卒業。同大学在学中、安宅賞受賞、芸大オーケストラと共演。卒業後、ニューヨーク、ジュリアード音楽院に奨学生として入学、アスペン音楽祭、マールボロ音楽祭に参加。卒業後、ソロ、室内楽奏者として全米各地で活動。2004年NHK交響楽団に入団、現在首席代行奏者を務める。これまでに掛谷洋三、沢和樹、田中千香士、ドロシー・ディレイ、川崎雅夫氏らに師事。

藤村 俊介 (チェロ)
 桐朋学園大学音楽部卒業。チェロを安田健一郎氏に師事。日本演奏連盟賞受賞。第58回に日本音楽コンクール・チェロ部門第2位。1989年NHK交響楽団に入団。93年アフィニス文化財団の奨学生としてドイツに留学し、メロス弦楽四重奏団のペーター・ブック氏に師事。現在N響次席奏者、フェリス女学院大学講師、チェロ四重奏団「ラ・クァルティーナ」のメンバーとして活動している。