サルスエラの音楽には17世紀頃のヨーロッパに起源を発する楽器の集合体(現在シンフォニック・オーケストラと呼ばれているもの)が使われています。 これは「オペラ」や「コミック・オペラ」 も同様です。
時には ガイタ、カスタネット、テノーラ、チストスの様なスペインの民族楽器が姿を見せることもありますが、これは特定の場面に郷土色を添えるために用いられる場合に限られます。
次に声の問題を取り上げることとします。.先ず声はイタリア・オペラと似た形で使用されていますが、通常サルスエラの楽譜には込み入った指定はしてあり ません。
.サルスエラでの声のパートの分け方はオペラとよく似ていますが、パート相互の関係はかなり違ったものとなってい ます。 例を挙げると、イタリア・オペラでは主役はほとんどテノールによって演じられますが、サルスエラでは多くの 場合、バリトン が主役を務めます。また一般的にサルスエラのバリトンはイタリア・オペラより叙情的に歌い、数 多くの作品の中で美しいロマンス(アリア)や、愛のデュエットを輝かしく歌いあげるなど、イタリア・オペラのバリトンより、ずっと目だつ役を与えられているのです。
.サルスエラに於ける女声の役割はオペラほど重要ではありません。これは今日では衰えつつある習慣ではあります がソプラノがチプレ(と呼ばれてことにも現れています。またメゾソプラノやコントラアルトもオペラほどドラマテックな役 を与えられることはありません。
.もう一つ、オペラとの音声上のおおきな相違点として、サルスエラでのコミカルな歌手、特にコミカルテナーの存在を あげることができるでしょう。 コミカルテナーは、イタリアオペラではまれにしか登場しませんし、役割も常に公証人 とか召使とかのような脇役にかぎられています、しかしサルスエラでは、ひんぱんに登場します。これがサルスエラと フランス、イタリアの同族との違いを際だたせる特徴となっています。コミカルテナーはしばしば実声(本当の声)を使わず道化役としてふざけながらて歌います。老人の役の場合は、『ベルベナ・デ・ラ・パロマ』のドン・ヒラリオンのように ぼけ役として、また召使や狂言回しの役回りを演じる場合には、軽妙さを表現するためにコミカル・テナー が用いられるのです。美的見地からいうと、このような声が加わった場合は、悲惨な結果に終わることが多いので すが、 現実には、スペインのサルスエラの観客はこのような役の登場をたいへん好んでいます。又このような役をうまく演じきる技量を備えた歌手がサルスエラの世界には存在しています。